加納城跡――夜の石垣に立つ女

岐阜県にある加納城跡。

かつて城が築かれていた場所には、今も石垣や土塁の跡が残っている。

これは、ある男性が夜に加納城跡を訪れたときの話だ。

その男性は歴史が好きで、昼間とは違う城跡の雰囲気を見てみたいと思い、夜の加納城跡を一人で歩いていた。

周囲は静まり返っていた。

街の明かりは遠く、石垣の周辺にはほとんど人の気配がない。

懐中電灯で足元を照らしながら歩いていると、ふと前方に人影が見えた。

石垣の近くに、女性が一人で立っていた。

白っぽい服を着て、こちらに背を向けている。

こんな時間に、なぜこんな場所にいるのだろう。

そう思った男性は、少し距離を取ったまま声をかけた。

「大丈夫ですか?」

女性は振り返らなかった。

ただ、石垣をじっと見つめている。

男性がもう一度声をかけようとした、その瞬間だった。

女性の姿が、突然消えた。

「え?」

ほんの一瞬、目を離しただけだった。

しかし、周囲には隠れられる場所などない。

男性は不思議に思いながら、女性が立っていた場所まで近づいた。

すると、足元の石垣から――

「……カツン」

小さな音が聞こえた。

石が落ちたのかと思った。

ところが、その直後。

「……カツン」

また音がした。

今度は、すぐ後ろからだった。

男性が振り返る。

誰もいない。

それでも、背後から誰かに見られているような感覚だけが消えなかった。

怖くなった男性は、その場を離れることにした。

そして出口へ向かって歩き始めたとき、スマートフォンが突然震えた。

画面には、先ほど撮影した城跡の写真が表示されていた。

何気なく確認すると、写真の端に奇妙なものが写っていた。

石垣の前に立つ、白い服の女性。

男性が振り返ったときには、誰もいなかったはずの場所だった。

さらに恐ろしいことに、その女性はカメラを見ていた。

そして写真を拡大した瞬間――

女性の顔だけが、まるで泣いているように歪んでいたという。

男性はその写真を消し、それ以来、夜の加納城跡には近づかなくなった。

あの夜、石垣の前に立っていた女性が何者だったのか。

今も分かっていない。

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