琴塚古墳――夜の古墳で聞こえた琴の音

岐阜県にある琴塚古墳。

昼間は静かな史跡として知られている場所だが、夜になると、少し変わった噂がある。

「古墳の近くで、誰もいないはずなのに琴の音が聞こえる」

そんな話だった。

ある男性が、仕事帰りに古墳の近くを車で通ったときのことだった。

時刻は午後11時を過ぎていた。

周囲には人の姿もなく、街灯の少ない道を車のライトだけが照らしていた。

そのときだった。

――ポーン。

どこからか、琴を弾くような音が聞こえた。

男性は車を止め、窓を少し開けた。

すると、

――ポーン……ポーン……

今度ははっきりと聞こえた。

古墳の方向からだった。

「こんな時間に誰かいるのか?」

そう思い、車を降りて音のする方へ歩いていった。

しかし、そこには誰もいない。

辺りを見回しても、聞こえるのは風で木の葉が揺れる音だけだった。

男性が引き返そうとした、その瞬間。

――ポーン。

また琴の音が鳴った。

今度は、すぐ後ろから聞こえた。

驚いて振り返る。

だが、誰もいない。

そして次の瞬間、耳元で小さな声がした。

「……まだ、帰らないで」

男性は慌てて車まで走った。

エンジンをかけ、すぐにその場を離れた。

しかし、バックミラーを見た瞬間、男性は凍りついた。

古墳の前に、白い着物を着た女性が立っていた。

顔はうつむいていて、表情は見えない。

ただ、その手には古い琴のようなものが抱えられていた。

男性がもう一度ミラーを見ると、女性の姿は消えていた。

その後、男性は二度と夜の琴塚古墳には近づかなかったという。

そして不思議なことに、それからしばらくの間。

夜になると、自宅の庭から、

――ポーン……

という琴の音が聞こえるようになった。

もちろん、庭には琴など置いていない。

男性は今でも、その音がどこから聞こえていたのか分からないという。

古墳の静寂の中に響く、誰も弾いていない琴の音。

それは今夜も、誰かを待つように鳴っているのかもしれない。

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