大宮公園――夜のベンチ

夜の大宮公園は、昼間とはまるで違う。

昼には家族連れや散歩をする人で賑わう園内も、日付が変わる頃になると、人の気配がほとんどなくなる。

ある男性が、深夜に公園を歩いていた。

特に目的はなかった。

ただ、眠れず、静かな場所を歩きたくなっただけだった。

園内をしばらく歩いていると、街灯の下に一つのベンチが見えた。

男性はそこに腰を下ろした。

すると――

「……隣、いいですか?」

突然、背後から女の声がした。

驚いて振り返る。

しかし、誰もいない。

気のせいだと思い、再び前を向いた。

その瞬間だった。

ベンチの隣に、誰かが座ったように沈み込んだ。

「……え?」

男性は立ち上がろうとした。

だが、身体が動かない。

隣を見ることもできなかった。

すると耳元で、もう一度声がした。

「どうして……私を置いていったの?」

男性には、まったく心当たりがなかった。

怖くなって無理やり立ち上がり、振り返る。

そこには誰もいない。

ただ、ベンチだけが静かに残っていた。

男性はそのまま公園を出た。

翌朝、昨夜のことを確かめようと、もう一度同じ場所を訪れた。

そしてベンチを見ると、座面に濡れた跡が残っていた。

雨は降っていなかった。

さらに不思議なことに――

その濡れた跡は、一人分ではなく、二人分あった。

それ以来、男性は夜の大宮公園には近づかなくなったという。

そして今でも、深夜にあのベンチの近くを通ると、

「……隣、いいですか?」

誰もいないはずの場所から、女の声が聞こえることがあるという。

――もし声を聞いても、決して振り返ってはいけない。

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