鳥取城跡――夜になると聞こえる足音
夜の鳥取城跡には、昼間とはまったく違う空気が流れるという。
ある夏の夜、怪談好きの青年が一人で城跡を訪れた。
石垣を照らしながら山道を歩いていると、後ろから、
「……ザッ……ザッ……」
と、誰かが歩く音が聞こえてきた。
振り返る。
誰もいない。
気のせいだと思い、再び歩き始める。
すると今度は、さっきより近い場所から、
「ザッ……ザッ……ザッ……」
足音がついてくる。
青年が立ち止まると、足音も止まった。
怖くなった青年は、スマートフォンのライトを消し、しばらくその場で息を潜めた。
すると、暗闇の中から小さな声が聞こえた。
「……おなかが……すいた……」
青年の背筋が凍った。
声は、すぐ後ろから聞こえた。
恐る恐る振り返る。
そこには、古びた着物を着た人影が立っていた。
顔は暗くて見えない。
ただ、両手を腹の前で押さえながら、こちらをじっと見ている。
「……食べ物を……」
青年は恐怖で動けなかった。
すると人影の背後から、さらに別の影が現れた。
一人。
二人。
三人……。
いつの間にか、石垣の下には何十人もの人影が立っていた。
誰もが痩せ細り、こちらを見つめている。
そして全員が、同じ言葉を繰り返し始めた。
「……おなかがすいた……」
「……食べ物を……」
「……何か……食べるものを……」
青年は夢中で山道を駆け下りた。
振り返ることはできなかった。
しかし、背後からは無数の足音が追いかけてくる。
「ザッ……ザッ……ザッ……」
城跡を離れ、明るい道路まで出た瞬間――
足音が突然消えた。
青年はその場に座り込み、荒い息を吐いた。
翌朝、昨夜のことを確かめようと、撮影していたスマートフォンの映像を確認した。
そこには、青年が一人で石垣を歩いている姿が映っていた。
もちろん、人影など映っていない。
青年は少し安心した。
ところが、動画の最後。
青年が逃げ出す直前の映像に、奇妙な音声が入っていた。
「……ひとりじゃないよ」
そして、その直後。
画面の端に、青白い顔が一瞬だけ映り込んでいた。
青年は慌てて動画を消した。
それ以来、二度と鳥取城跡へは行かなかったという。
そして今でも、夜の鳥取城跡では――
誰もいないはずの山道から、
「ザッ……ザッ……」
と、誰かが歩く音を聞いたという話が残っている。
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