長岡百穴古墳――穴の奥から聞こえる声

日が暮れる少し前、私は長岡百穴古墳を訪れた。

山の斜面に並ぶ無数の横穴。
薄暗くなった古墳群は、昼間に見るよりもずっと不気味だった。

入口から中を覗いてみる。

当然、そこには何もない。

そう思っていた。

「……こっちへ来て」

突然、背後から声が聞こえた。

振り返っても、誰もいない。

風の音だろう。

そう考えて、もう一度穴の中を覗いた。

すると今度は――

「……こっち」

明らかに穴の奥から声がした。

私は思わず後ずさった。

声のした横穴をスマートフォンのライトで照らしてみる。

奥行きはそれほど深くない。

誰かが隠れているようにも見えない。

しかし、ライトを消した瞬間。

穴の奥から、小さく何かを擦る音がした。

ザッ……ザッ……

まるで誰かが、暗闇の中を這ってこちらへ近づいているような音だった。

怖くなった私は、その場を離れようとした。

その瞬間だった。

周囲に並ぶ別の穴からも、声が聞こえ始めた。

「……ここ」

「……いるよ」

「……見つけて」

一つではない。

二つ、三つ。

やがて、無数の穴から声が重なっていく。

私は走ってその場を離れた。

しばらくして振り返る。

すると、さっきまで誰もいなかった古墳の前に――

白い服を着た人影が立っていた。

顔は見えない。

ただ、その人物は私のいる方向をじっと見つめていた。

そして、ゆっくりと手を上げる。

指差した先は、私が先ほど覗き込んだ横穴だった。

その瞬間、スマートフォンが突然震えた。

画面には、さっき撮影した写真が表示されていた。

そこには横穴しか写っていない。

……はずだった。

拡大してみる。

穴の奥。

暗闇の中に、誰かの顔が写っていた。

そして、その顔の口元は――

「おいで」

そう言っているように見えた。

私は二度と、その写真を開くことができなかった。

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