七ツ屋高架下――誰もいないはずの足音

深夜、七ツ屋の高架下を一人で歩いていた。

昼間なら車の音や人の話し声が聞こえる場所だが、午前一時を過ぎると、周囲は驚くほど静かになる。

その夜、仕事帰りだった男は、いつものように高架下を通っていた。

すると突然、

「……コツ、コツ、コツ」

背後から足音が聞こえた。

誰か歩いている。

そう思って振り返ったが、そこには誰もいなかった。

気のせいだと思い、歩き続ける。

すると、また――

「コツ、コツ、コツ」

今度は、さっきより近い。

男は少し早足になった。

それに合わせるように、後ろの足音も速くなる。

「コツ、コツ、コツ……」

怖くなった男は、思い切って振り返った。

やはり誰もいない。

ただ、高架の柱と薄暗い道路が見えるだけだった。

その瞬間だった。

耳元で、女の声がした。

「……待って」

男は凍りついた。

声がしたのは、確かにすぐ後ろ。

しかし振り返ることができない。

すると今度は、肩のすぐ横から、

「どこ行くの……?」

と、低い声が聞こえた。

男は夢中で走り出した。

高架下を抜け、明るい場所まで来てから、ようやく後ろを振り返る。

そこには誰もいなかった。

翌日、男は昨夜の出来事を知人に話した。

すると知人は、少し黙ったあと、

「七ツ屋の高架下って、夜に一人で歩くと足音を聞いたって話、昔からあるらしいよ」

そう言った。

さらに、

「でも、一番怖いのは……足音じゃない」

「じゃあ、何?」

知人は答えなかった。

ただ、

「もしまた聞こえても、絶対に振り返らないほうがいい」

そう言ったという。

それ以来、男は夜の高架下を通らなくなった。

そして今でも、深夜の七ツ屋高架下では――

誰もいないはずの場所から、

「コツ……コツ……コツ……」

という足音が聞こえることがあるという。

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