大谷グランド・センター――岩山に残った男

夜の大谷町は、昼間とはまるで別の場所だった。

岩山に囲まれた道を、私は一人で歩いていた。

目的地は、かつて「山本園大谷グランドセンター」と呼ばれていた建物。

長い間、人の気配が消えていたその場所には、いつしか奇妙な噂が広がっていた。

――夜になると、建物の中から男の声が聞こえる。

――誰もいないはずなのに、階段を上ってくる足音がする。

そんな話だった。

もちろん、私は噂を信じていたわけではない。

ただ、その建物がどんな場所だったのか、この目で確かめてみたかった。

建物を見上げる。

岩山と一体になったような外観。

長い年月を過ごした建物には、独特の重さがあった。

そのときだった。

「……カツン」

背後で、小さな音がした。

振り返る。

誰もいない。

風で石でも転がったのだろう。

そう思って歩き出した。

しかし、

「カツン……カツン……」

今度は二回。

しかも、音は明らかに近づいていた。

私は立ち止まった。

すると、建物の奥から、

「……まだ、帰らないのか」

男の声がした。

低く、かすれた声だった。

一瞬、誰かがいるのかと思った。

だが、建物の中には誰もいない。

私は怖くなり、その場を離れようとした。

その瞬間。

目の前の暗い窓に、何かが映った。

自分の姿ではない。

後ろに、男が立っていた。

作業着のような服を着て、じっとこちらを見ている。

私は反射的に振り返った。

当然、誰もいない。

もう一度窓を見る。

男は消えていた。

そして、その代わりに窓ガラスへ、白い文字のようなものが浮かんでいた。

「ここは、まだ終わっていない」

私は走ってその場を離れた。

翌日、撮影した写真を確認してみると、一枚だけ妙な写真が残っていた。

建物の窓を撮った写真。

そこには、誰もいないはずの室内に、一人の男が立っていた。

そして、その男の視線は――

カメラではなく、

私が立っていた場所を見つめていた。

大谷グランド・センターには、かつて多くの人が訪れ、長い時間を経て一度は人の気配が消えた歴史があります。現在は再び人が集まる場所として新たな時間を刻んでいます。

それでも、もし夜の静かな大谷町で、

「カツン……カツン……」

と、石を踏むような音が聞こえたら――

振り返らないほうがいい。

その音は、

あなたの後ろからではなく、岩山の中から聞こえているのかもしれない。

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