山手の洋館――夜の窓に立つ女
横浜の山手には、今も多くの古い洋館が残っている。
白い壁、赤い屋根、古い木製の窓。
昼間なら観光客も多く、異国情緒のある美しい街並みとして知られている場所だ。
しかし、夜になると雰囲気が一変する。
これは、山手の洋館を夜に訪れたという、ある男性の話だ。
その男性が山手を歩いていたのは、夜の11時を過ぎた頃だった。
昼間に一度訪れたことがあり、その美しい街並みが気に入っていた彼は、夜の洋館も見てみようと思った。
坂道を上り、街灯の少ない道を歩いていく。
周囲には古い洋館が並んでいる。
窓は暗く、庭にも人の気配はない。
しばらく歩いていると、彼は一軒の洋館の前で足を止めた。
二階の窓。
そこだけ、薄暗い明かりがついていた。
「誰かいるのかな……」
そう思って見上げていると、窓の奥に人影が現れた。
女性だった。
白い服を着た女が、窓の向こうに立っている。
こちらを見ているようだった。
彼は驚いたものの、洋館には管理者や関係者がいるのだろうと思い、そのまま歩き始めた。
ところが――
数十メートル進んだところで、妙なことに気づいた。
背後から、
コツ……
コツ……
と、靴音が聞こえる。
振り返る。
誰もいない。
気のせいだと思い、再び歩く。
すると、
コツ……
コツ……
今度は、さっきより近い。
怖くなった彼は、早足で坂を下った。
その途中、何気なく洋館のほうを振り返った。
二階の窓。
先ほどの女が、まだ立っていた。
だが、おかしい。
さっき見たときよりも、明らかに近くに見える。
彼は目を疑った。
そして、次の瞬間――
女がゆっくりと手を上げた。
まるで、
「こっちへ来て」
と呼んでいるようだった。
彼は走った。
坂を下り、明るい通りまで一気に駆け抜けた。
その夜は何とか何事もなく帰宅したという。
ところが翌朝。
昨夜撮影した写真を整理していると、山手の洋館を撮った一枚に妙なものが写っていた。
二階の窓。
そこには確かに、白い服の女が立っている。
しかし――
男性が撮影した写真では、洋館の二階に人が立てるような場所は写っていなかった。
そして、写真を拡大してみると、
女の顔には目も鼻も口もなかった。
ただ真っ白な顔で、こちらを向いていた。
それ以来、男性は夜の山手を歩かなくなったという。
昼間なら美しい洋館が並ぶ山手。
しかし、日が落ちたあと、その古い窓をじっと見つめていると――
今度は、こちらから見られているのかもしれない。
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