キリシタン殉教記念公園――夜の祈り

大分県のある公園に、夜になると近づいてはいけない場所がある。

そこは、キリシタン殉教記念公園。

昼間は静かな公園だ。

木々の間には記念碑が立ち、かつてこの地で命を落とした人々を慰霊している。

しかし、地元では昔から、夜の公園について妙な噂があった。

「夜中に行くと、女の人が立っている」

「写真を撮ると、知らない人影が写る」

そして、最も不気味な話。

「公園から帰っても、霊は一人では帰してくれない」

そんな噂だった。

ある夏の夜、大学生の男三人が肝試しに向かった。

時計は午前一時を回っていた。

車を公園近くに止めると、三人は笑いながら歩き始めた。

「ここが昔、処刑場だったんだろ?」

「だから何だよ。幽霊なんているわけないって」

懐中電灯の明かりが、暗闇の中を細く照らす。

公園は驚くほど静かだった。

虫の声すら、ほとんど聞こえない。

やがて三人は記念碑の前まで来た。

そのときだった。

――カラン。

どこからか、小さな金属音がした。

三人が振り返る。

誰もいない。

「今の何?」

「知らねえよ」

そう言って、一人がスマートフォンを取り出した。

「記念に写真撮ろうぜ」

三人は記念碑の前に並んだ。

シャッターを切る。

その瞬間。

スマートフォンの画面が、一度だけ真っ黒になった。

「……何だこれ?」

画面が戻る。

写真には、三人が写っていた。

ただし――

三人の後ろに、もう一人いた。

白っぽい服を着た女。

長い髪を垂らし、俯いている。

「……誰?」

三人は凍りついた。

その女は、三人のすぐ後ろに立っているように見えた。

慌てて振り返る。

誰もいない。

「帰ろう」

最初にそう言ったのは、一番強気だった男だった。

三人は急いで車へ戻った。

しかし、車に乗り込んだ瞬間。

後部座席から、

――コン。

音がした。

三人は動けなくなった。

もう一度。

――コン。

今度は、はっきり聞こえた。

誰かが車の後ろから窓を叩いている。

「……見るな」

誰かが小さく呟いた。

それでも、一人が恐る恐るバックミラーを見た。

そこには――

白い服の女が立っていた。

そして女は、ゆっくりと手を上げた。

まるで、

「おいで」

と手招きするように。

男はアクセルを踏み込んだ。

車は公園を離れた。

それから数日後。

三人のうち、一人だけに異変が起きた。

夜になると、足首が痛む。

最初は軽い痛みだった。

だが、日を追うごとに強くなっていった。

ある夜。

ベッドで眠っていると、

――ギュッ。

突然、足首を誰かに握られたような感覚がした。

「痛っ!」

飛び起きる。

当然、誰もいない。

しかし足首には、まるで指で握られたような赤い跡が残っていた。

その夜から、男は奇妙な夢を見るようになった。

暗い道を歩いている。

前には一人の女がいる。

女は何も言わず歩いている。

その後ろには、別の人影。

さらにその後ろにも人影。

一人。

また一人。

また一人。

何十人もの人間が、黙って男の後ろについてくる。

そして最後には――

最初に見た女が振り返る。

口元だけが、ゆっくり動く。

「帰りましょう」

そこで男は目を覚ます。

だが、ある朝。

目を覚ました男は、ベッドの足元を見て凍りついた。

床には、濡れた足跡があった。

一人分ではない。

二人。

三人。

四人。

その足跡は、玄関へ続いている。

そして玄関のドアの前には――

泥で書かれたような文字が残っていた。

「まだ、ひとりたりない」

男は、その意味が分からなかった。

だが、その日の夜。

スマートフォンに一枚の写真が送られてきた。

送り主は、肝試しを一緒にした友人だった。

写真には、あの公園が写っていた。

そして記念碑の前に、

三人ではなく、

四人の人間が立っていた。

その四人目は――

あの夜の女だった。

写真の下には、友人から一言だけ。

『お前の後ろ、誰かいる?』

男は恐る恐る振り返った。

誰もいない。

安心した、その瞬間。

耳元で、女の声がした。

「……ひとりでは、帰れませんよ」

そして男の足首に、

冷たい手が触れた。

その夜以降、男の姿を見た者はいない。

ただ、彼のスマートフォンだけが部屋に残されていた。

最後に撮影された写真。

そこには、暗い公園の中を歩く人影が、

一人、また一人と連なっていた。

まるで――

長い長い「人間の鎖」のように。

そして、その列の最後尾には、

新しく一人の男が加わっていた。

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