地球岬――海から聞こえる声

北海道・室蘭市にある地球岬。

断崖の上から見渡す海はどこまでも広く、晴れた日には水平線がきれいに見える。

けれど、地元では昔から、こんな話が囁かれていた。

「夕暮れ時、岬の先で海を見続けてはいけない」

ある夏の夕方、一人の男が地球岬を訪れた。

観光客の姿も少なくなった午後七時頃。

男は展望台から海を眺めながら、スマートフォンで写真を撮っていた。

そのときだった。

「……おーい」

背後から、誰かの声がした。

振り返る。

誰もいない。

気のせいだと思い、再び海へ目を向けた。

すると――。

「……おーい」

今度は、海のほうから聞こえた。

男は耳を疑った。

断崖の下には、荒い波が打ち寄せている。

人の姿など見えるはずがない。

それでも確かに、海面のあたりから声が聞こえていた。

「……こっち……」

男は身を乗り出して海を見下ろした。

その瞬間。

海面に、一人の人影が立っているのが見えた。

白い服を着た誰かが、波の上に立っている。

そして、こちらを見上げている。

男は慌てて後ろへ下がった。

するとスマートフォンが突然震えた。

画面には、今撮ったばかりの写真が表示されていた。

そこには、岬と海が写っている。

しかし――。

写真の中央に、見知らぬ女性が立っていた。

しかも、その女性は海の上ではなく、

男のすぐ後ろに立っていた。

男は恐ろしくなり、走って駐車場へ向かった。

車に乗り込み、エンジンをかける。

そしてバックミラーを見た。

誰もいない。

ほっとした、その瞬間。

後部座席から声がした。

「……どうして帰るの?」

男は凍りついた。

ゆっくり振り返る。

そこには誰もいない。

ただ、濡れた座席だけがあった。

そして窓には、内側から水滴が流れていた。

その水滴は、まるで指で文字を書いたように、

こう並んでいた。

「また海を見に来てね」

男は二度と地球岬を訪れなかった。

しかし数年後。

彼が当時撮影した写真を友人が見つけた。

写真には、岬の先に立つ男の姿。

その背後には、白い服の女性。

そしてさらにその後ろ――。

海の中から、何十本もの白い手が伸びていた。

その手はすべて、

地球岬の上にいる男を指差していた。

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