ラブホテル・コスモ――最後の部屋

北海道・音更町。

かつて、そこには「コスモ」という名前のラブホテルが建っていた。

宇宙船を思わせる独特な外観で、営業を終えた後は長い間、廃墟として残されていたという。

そして、いつからかこんな噂が広まった。

「一番左の部屋には、女がいる」

ある夏の夜、二人の男がその噂を確かめようと、ホテルの前までやって来た。

建物は真っ暗だった。

風もないのに、古びた看板だけがギシ……ギシ……と揺れている。

一人がカメラを取り出した。

「撮ってみようぜ」

建物に向けてシャッターを切る。

すると、カメラの画面が一瞬だけ真っ黒になった。

「バッテリー切れ?」

しかし、電池は十分に残っている。

再び電源を入れる。

今度は普通に映った。

二人は気にせず建物の中へ進んだ。

廊下の奥には、いくつもの部屋が並んでいる。

そして一番左。

噂の部屋の前まで来た。

ドアを開けた瞬間だった。

「……寒くない?」

真夏だというのに、部屋の中だけ異様に冷えていた。

壁には大きな鏡が残されている。

男の一人が、何気なく鏡にカメラを向けた。

その瞬間――

「……え?」

鏡の中に、二人ではない人影が映っていた。

長い髪の女。

二人のすぐ後ろに立っている。

男たちは同時に振り返った。

誰もいない。

もう一度、鏡を見る。

女は消えていた。

「今、見たよな?」

「……見た」

二人は急いで部屋を出ようとした。

そのとき。

廊下の奥から、

「……待って……」

女の声がした。

二人は走った。

振り返らず、出口へ向かう。

しかし、出口の扉に手をかけた瞬間――

背後から、

「待ってって言ってるでしょ」

今度は、すぐ耳元で聞こえた。

二人は悲鳴を上げて外へ飛び出した。

車に乗り込み、ホテルから離れる。

しばらくして、男の一人が震える手でカメラを確認した。

「……なあ」

画面には、さっき撮影した写真が一枚だけ残っていた。

一番左の部屋。

その鏡を写した写真だった。

二人の後ろには、長い髪の女が立っている。

そして――

女の顔だけが、こちらを向いていた。

だが、本当に恐ろしかったのは、その次だった。

写真の隅。

ホテルの二階の窓。

そこにも、もう一人の女が立っていた。

二人をじっと見下ろしている。

「……俺たちが入る前から、いたのか?」

誰も答えなかった。

その後、二人は二度とコスモへ近づかなかったという。

ただ、一人だけは後になってこう話した。

「あの写真……おかしいんだ」

「何が?」

「撮ったとき、二階の窓なんて見てなかったんだよ」

「じゃあ、なんで?」

男はしばらく黙った。

そして、小さな声で言った。

「写真を撮った瞬間、鏡の中の女が……笑ってたんだ」

「でも、俺たちが気づいたときには、もう笑ってなかった」

「……写真の中だけで、笑ってたんだ」

それ以来――

コスモの「一番左の部屋」には、女がいる。

そして夜、その建物の前を通ると、

二階の窓から誰かがこちらを覗いている。

そんな噂だけが、今も残っている。

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