滝山小学校――一段多い階段
夜の滝山小学校。
校舎には誰もいない。
……そのはずだった。
ある夏の夜、忘れ物を取りに戻った少年が、校舎の中へ入った。
廊下は真っ暗だった。
懐中電灯を照らしながら階段へ向かう。
一段。
二段。
三段。
いつも通りの階段だった。
ところが――
「……あれ?」
途中で、少年は足を止めた。
階段の段数が、昼間と違っていた。
一段……多い。
「こんな階段だったっけ……?」
気味が悪くなった少年は、急いで上へ向かった。
すると、どこからか――
チリン……
鈴の音が聞こえた。
一度。
そして、もう一度。
チリン……チリン……
音は、階段の下から聞こえてくる。
少年が振り返る。
誰もいない。
しかし、暗闇の向こうから、
「……ねえ」
女の声がした。
少年は凍りついた。
「……誰?」
返事はない。
ただ、また鈴の音が鳴った。
チリン……
そして今度は――
階段の一番下に、
白い服を着た女が立っていた。
顔は見えない。
長い髪が、顔をすっぽり覆っている。
少年は逃げようとした。
その瞬間。
女が一歩、階段を上った。
カツン。
また一歩。
カツン。
そして、もう一歩。
カツン。
近づいてくる。
少年は夢中で階段を駆け上がった。
しかし、何段上っても廊下に出られない。
「なんで……!」
そして気づいた。
階段が――
終わっていない。
昼間なら十数段しかないはずの階段が、どこまでも続いている。
背後から、
チリン……チリン……
鈴の音が近づいてくる。
少年は目を閉じて、一気に駆け上がった。
そして――
突然、足が床についた。
目を開けると、そこは二階の廊下だった。
朝だった。
先生たちが慌てた様子で少年を探していた。
「どこにいたんだ!」
少年は答えられなかった。
ただ、階段を指差した。
先生が不思議そうに階段を見る。
「……階段?」
そこには、いつも通りの階段しかなかった。
少年は震えながら言った。
「一段……増えてた」
先生は笑わなかった。
なぜなら――
その階段の壁に、小さな鈴が一つだけ掛かっていたからだ。
誰が置いたのか。
誰も知らなかった。
そして、その日から少年は、学校の階段を数えるようになった。
一段。
二段。
三段。
……
最後の段まで数える。
いつも同じ。
なのに、ある雨の日。
少年が帰り際にもう一度数えると、
一段多かった。
その瞬間。
背後から、女の声がした。
「……今度は、間違えないでね」
そして――
チリン。
少年は二度と、その階段を一人では上らなくなった。
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