グリュック王国――閉ざされた遊園地で聞こえた拍手
北海道・帯広の近くに、かつて「グリュック王国」というテーマパークがあった。
ドイツの街並みを再現した園内には、城のような建物や石畳の道が並び、かつては多くの観光客で賑わっていたという。
しかし、閉園してから長い年月が経った現在、その場所には人の気配がほとんどない。
これは、そんなグリュック王国を訪れたという、ある男性から聞いた話だ。
その男性が友人二人とグリュック王国を訪れたのは、閉園からしばらく経った頃だった。
昼間に外から眺めるだけのつもりだった。
ところが、建物の一部が森の中に残されているのを見つけると、三人とも好奇心を抑えられなくなった。
「ちょっとだけ見てみよう」
そう言って、敷地の奥へ入っていった。
周囲には草が生い茂り、以前は観光客が歩いていたはずの道も、ほとんど分からなくなっていた。
やがて、ドイツの街並みを模した建物が見えてきた。
窓は割れ、壁には黒い汚れが広がっている。
それでも建物の雰囲気だけは、昔のまま残っていた。
「ここ、本当に営業してたんだよな」
友人がそう言った瞬間だった。
――パチ。
どこからか、小さな拍手の音がした。
三人とも黙った。
「今、聞こえた?」
誰かがそう言った。
――パチ……パチ……。
今度ははっきり聞こえた。
建物の中からだった。
三人は顔を見合わせた。
誰かがいるのかもしれない。
そう考え、慎重に建物の入口へ近づいた。
中は真っ暗だった。
懐中電灯を照らしても、家具らしいものはほとんど残っていない。
そのまま数歩進む。
すると、また拍手が聞こえた。
――パチ、パチ、パチ。
今度は先ほどより近い。
しかも、どうやら一人ではない。
複数の人間が拍手しているように聞こえた。
「誰かいるんですか?」
友人の一人が声を上げた。
返事はない。
その代わり、
――パチパチパチパチ……
拍手だけが続いた。
そして突然、拍手が止まった。
静寂が戻る。
「もう出よう」
そう言って入口へ戻ろうとした、その時だった。
建物の奥から、
「……ありがとうございました」
という声が聞こえた。
三人とも凍りついた。
それは、まるで昔の遊園地で係員が客に向かって言うような、妙に丁寧な声だった。
しかも、その声の直後――
暗闇の奥に、人影が立っているのが見えた。
黒い服を着た人間のようだった。
ただ、顔だけが見えない。
「走れ!」
誰かが叫んだ。
三人は一斉に入口へ向かった。
背後から、
――パチ……パチ……パチ……
また拍手が始まった。
しかし、今度の拍手は違っていた。
三人の後を追うように、少しずつ近づいてくる。
建物を出ても聞こえる。
草むらを走っても聞こえる。
そして敷地の外へ出た瞬間――
ピタリと止まった。
三人は車まで戻り、何も言わずにその場を離れた。
しばらく走ったところで、後部座席にいた友人が突然、
「……一人多くない?」
と言った。
運転していた男性は、冗談だと思った。
しかし、バックミラーを見て言葉を失った。
後部座席には二人しかいない。
ところが、車内の窓にだけ――
四人分の人影が映っていた。
三人は振り返らなかった。
そのまま無言で走り続けたという。
翌日、撮影した写真を確認すると、建物の暗い窓に奇妙なものが写っていた。
そこには、三人の姿ではなく――
何十人もの人間が、こちらを向いて拍手しているような影が映っていた。
もちろん、その場には三人以外誰もいなかった。
そして写真を撮った場所は、閉園後ずっと使われていないはずの建物だった。
男性はその写真を今でも削除できずにいるという。
なぜなら、写真を撮った時には気づかなかったのだが――
窓に映った人々の中に、
自分たち三人と同じ服を着た三人の姿があったからだ。
まるで、最初からそこにいたかのように。
そして、その三人の影だけが、
こちらを向いて笑っていたという。
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