済生会新潟病院――夜中に鳴るナースコール
深夜の病院は、昼間とはまるで別の場所に見える。
照明を落とした廊下には、機械の低い作動音と、空調の風が流れる音だけが響いていた。
その夜、看護師が巡回をしていると、誰も入っていない病室からナースコールが鳴った。
「……また?」
表示されたのは、普段ほとんど使われていない病室だった。
看護師は急いで部屋へ向かった。
しかし、扉を開けても誰もいない。
ベッドはきれいに整えられ、椅子にも誰も座っていない。
「おかしいな……」
そう呟いてナースコールを確認すると、確かに押された形跡が残っていた。
その後も、同じことが何度か続いた。
午前二時。
またナースコールが鳴った。
今度は先ほどよりも長く、何度も何度も鳴り続けている。
看護師が病室へ向かうと、廊下の途中で突然、足音が聞こえた。
――ペタ……ペタ……。
裸足で歩いているような、ゆっくりとした足音。
「誰かいますか?」
返事はない。
しかし、足音だけが病室の奥へ向かって進んでいく。
看護師が後を追って病室に入った瞬間――
ナースコールが止まった。
そして、ベッドの横に置かれた椅子が、ゆっくりと動いた。
誰も触れていないはずの椅子が、床を擦りながら少しずつ後ろへ引かれていく。
看護師は思わず立ち止まった。
そのとき、耳元で小さな声がした。
「……まだ、帰れない」
驚いて振り返る。
もちろん、誰もいない。
翌朝、昨夜のことを同僚に話すと、先輩看護師はしばらく黙ったあと、こう言った。
「その部屋……昔から夜になるとナースコールが鳴るって話、あるよ」
「誰もいないのに?」
「そう。だから、夜勤の人はできるだけ一人で見に行かないようにしてる」
そう言って、先輩は最後にこう付け加えた。
「でもね……一番怖いのは、ナースコールじゃないの」
「じゃあ、何ですか?」
先輩は廊下の奥を見つめた。
「ナースコールが鳴る前に、病室の中から誰かが歩いてくる音が聞こえることがあるのよ」
その夜から、看護師は深夜の病棟を歩くとき、背後から聞こえる足音を決して振り返らなくなった。
――ペタ……ペタ……。
誰もいないはずの廊下を、今夜も誰かが歩いている。
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