千歳山――山道の向こうから

山形市の街中から少し離れた場所に、千歳山という山がある。

昼間はハイキングを楽しむ人も多く、木々の間から見える街並みも美しい。

けれど、地元では昔からこんな話がある。

「千歳山では、日が暮れてから山道を下りてはいけない」

ある秋の夕方、一人の男が千歳山を訪れた。

軽い気持ちで登り始めたものの、写真を撮りながら歩いているうちに、気がつけば辺りは薄暗くなっていた。

「そろそろ戻るか」

そう思ってスマートフォンを見る。

時刻は午後六時過ぎ。

山を下り始めると、先ほどまで聞こえていた車の音や街のざわめきが、嘘のように消えていた。

聞こえるのは、自分の足音だけ。

ザッ……ザッ……。

しばらく歩いたところで、後ろから別の足音が聞こえた。

ザッ……ザッ……。

振り返る。

誰もいない。

「気のせいか……」

そう思って歩き続ける。

すると、また聞こえた。

ザッ……ザッ……。

今度は、さっきより近い。

男は振り返らず、そのまま歩く速度を上げた。

すると後ろの足音も速くなる。

ザッ、ザッ、ザッ……。

怖くなった男は、思わず走り出した。

その瞬間だった。

背後から、女の声がした。

「……待って」

男の足が止まりそうになる。

しかし、振り返らなかった。

そのまま必死に山道を下った。

やがて街灯のある場所まで出ると、男は大きく息を吐いた。

「助かった……」

そう呟いて、スマートフォンを取り出す。

すると、山に入る前に撮った写真の中に、一枚だけ見覚えのない写真があった。

千歳山の山道。

木々の間に、誰かが立っている。

白っぽい服を着た女だった。

しかも、その女はカメラのほうを見ている。

男は撮影した覚えがなかった。

さらに恐ろしいことに、その写真の撮影時刻は――

午後六時十三分。

男がまだ山道を歩いていた時間だった。

そして写真を拡大すると、女の口元に文字のようなものが見えた。

男は震える手で画面を拡大した。

そこには、こう書かれていた。

「どうして振り返らなかったの?」

それ以来、男は二度と千歳山へ行かなかった。

ただ、一つだけ気になることがある。

後日、その写真をもう一度確認しようとしたところ――

写真の中の女が、少しだけ近づいていたという。

そして現在も、千歳山では日が暮れた後、

山道を歩いていると、

自分の後ろから聞こえる足音に混じって、

小さな女の声が聞こえることがあるという。

「……今度は、振り返ってね」

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