千葉公園――夜の池に立つ女
千葉県千葉市にある千葉公園。
昼間は散歩をする人や、池を眺める人で賑わう、ごく普通の公園だ。
しかし、夜になると雰囲気が変わる。
これは、ある男性が深夜に千葉公園を訪れたときの話だ。
男性は仕事帰り、少し遠回りをして公園の中を歩いていた。
時刻は午前0時を過ぎていた。
昼間なら気にも留めない池が、夜の闇の中では妙に大きく見えた。
風はほとんどなかった。
それなのに、水面だけがゆっくりと揺れている。
男性が池のそばを歩いていると、向こう岸に人影が見えた。
白っぽい服を着た女だった。
女は池の前に立ち、じっと水面を見つめている。
こんな時間に一人で何をしているのだろう。
そう思った男性は、そのまま通り過ぎようとした。
すると――
「……すみません」
背後から声がした。
振り返ると、先ほどの女が立っていた。
距離は数メートルしかない。
いつの間に近づいてきたのか、まったく分からなかった。
女は俯いたまま、もう一度言った。
「池の中に……人がいるんです」
男性は驚いて池を見た。
しかし、水面には何もない。
「どこですか?」
そう尋ねると、女は池の中央を指差した。
「……あそこです」
男性が目を凝らす。
すると、水面の下から何か白いものが浮かび上がった。
顔のようにも見えた。
男性は思わず一歩後ろへ下がった。
その瞬間だった。
隣にいたはずの女が消えていた。
周囲を見回しても、どこにもいない。
そして――
池の水面には、さっきまでなかった無数の波紋が広がっていた。
まるで、水の中から何人もの人間がこちらを見上げているようだった。
怖くなった男性は、振り返らずに公園を出た。
翌日、男性は昨夜のことを知人に話した。
すると知人は、不思議そうな顔をしてこう言った。
「その時間、千葉公園にいたの?」
「うん」
「……女の人なんて、見なかったけど」
男性はそこで初めて気づいた。
昨夜、自分が女と話していた場所。
そこには――
池へ下りていく階段など、存在しなかった。
そして男性が最後に女を見た場所には、濡れた足跡だけが残っていたという。
その足跡は池のほうから続いてきて、
男性の立っていた場所で、
突然途切れていた。
それ以来、男性は夜の千葉公園には近づかなくなったという。
そして今でも、深夜に池の近くを歩いていると、
「……すみません」
と、背後から声を掛けられることがあるという。
コメント
コメントを投稿