一つ森公園の「もう一人」
夜の一つ森公園には、近づかないほうがいい場所がある。
地元では昔から、そんな噂が囁かれていた。
ある夏の夜、友人と二人で公園を訪れた。
時計を見ると、午前一時を少し過ぎていた。
昼間は家族連れで賑わう公園も、この時間になると人影はほとんどない。
「さすがに静かだな」
そう言いながら歩いていると、後ろから、
――ザッ、ザッ、ザッ。
誰かが歩く音が聞こえた。
振り返る。
誰もいない。
「風じゃない?」
友人は笑った。
しかし、再び歩き始めると、足音もまた聞こえてくる。
――ザッ、ザッ、ザッ。
しかも今度は、さっきより近い。
怖くなって二人で足を止める。
すると足音も止まった。
「……いるよな?」
友人が小声で言った。
その瞬間だった。
公園の奥から、女の声がした。
「……二人?」
はっきり聞こえた。
思わず顔を見合わせる。
「今、誰かいた?」
そう言って周囲を見回したが、誰もいない。
もう帰ろう。
そう思って出口へ向かった。
ところが、途中で友人が突然立ち止まった。
「なあ……」
「何?」
友人は震えながら、スマートフォンの画面を見せてきた。
そこには、さっき二人で歩いていた道を撮った写真が表示されていた。
写真の奥。
街灯の届かない暗闇に、白い服を着た女が立っていた。
しかも――
女は、こちらを見ている。
「これ……撮った覚えないぞ」
二人は無言で走った。
ようやく公園の外へ出たところで、友人が振り返った。
「……一人多くない?」
「え?」
「さっきから、足音……三人分だった」
その言葉を聞いた瞬間、背後から、
――ザッ。
一歩。
――ザッ。
もう一歩。
そして耳元で、女の声がした。
「三人で帰ろうよ」
二人は振り返らなかった。
翌朝、昨夜の写真を確認すると、不思議なことが起きていた。
写真に写っていた女の姿が消えていたのだ。
ただし、写真の隅に小さく文字が残っていた。
「まだ一人、帰ってきてない」
それ以来、二人は夜の一つ森公園には二度と近づかなかったという。
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