鳥取砂丘――砂丘に残る「もう一人」の足跡
夜の鳥取砂丘は、昼間とはまるで別の場所だった。
観光客の姿は消え、街の明かりも遠い。
そこにあるのは、月明かりに照らされた無数の砂の丘と、どこまでも続く暗闇だけ。
ある夏の夜、二人の若者が砂丘を訪れた。
「せっかくだし、夜の砂丘まで歩いてみようぜ」
軽い気持ちだった。
二人はスマートフォンのライトを頼りに、砂丘の奥へと進んでいった。
しばらくすると、背後から妙な音が聞こえてきた。
――ザッ……ザッ……。
砂を踏む音だった。
「誰かいる?」
振り返る。
しかし、そこには誰もいない。
風が吹いているだけだった。
「気のせいだろ」
そう言って、二人は再び歩き始めた。
すると今度は、はっきり聞こえた。
――ザッ……ザッ……ザッ……。
しかも、音は二人の後ろから一定の距離を保ったままついてくる。
二人が止まる。
足音も止まる。
二人が歩く。
足音も歩く。
「……なあ」
友人が小さな声で言った。
「俺たち、二人だよな?」
「当たり前だろ」
そう答えた瞬間だった。
友人がライトを砂地に向けた。
そこには、二人分の足跡が並んでいた。
そして、その少し後ろ。
もう一列、足跡があった。
三人目の足跡。
二人は言葉を失った。
その足跡は、二人が歩いた場所を正確になぞるように続いていた。
しかし、周囲には誰もいない。
「戻ろう」
二人は急いで砂丘の入口へ向かった。
ところが、どれだけ歩いても景色が変わらない。
同じ砂の丘。
同じ月。
同じ風景。
そして背後から聞こえる足音。
――ザッ……ザッ……。
やがて友人が振り返った。
「……いる」
「何が?」
友人は答えなかった。
ただ、震える手で前方を指差した。
砂丘の向こうに、人影が立っていた。
白っぽい服を着た人間のように見える。
だが、妙だった。
その人物は、こちらを向いているはずなのに――
顔が見えない。
二人が一歩後ずさる。
人影も一歩近づく。
そして、突然風が止んだ。
完全な静寂。
次の瞬間。
耳元で、女の声がした。
「……一人、足りないよ」
二人は悲鳴を上げて走り出した。
必死に砂丘を駆け下り、ようやく街灯の見える場所まで戻った。
二人とも息を切らしながら、何度も後ろを確認した。
誰もいない。
「……助かった」
そう思った。
しかし翌朝。
撮影したスマートフォンの写真を確認して、二人は凍りついた。
夜の砂丘で撮った写真。
二人が並んで写っているはずの一枚。
その二人の間に――
見知らぬ女性が立っていた。
顔は長い髪で完全に隠れている。
そして写真の足元には、
三人分の足跡が写っていた。
その後、二人は二度と夜の砂丘へ行かなかったという。
ただ、不思議なことが一つだけある。
あの夜以来、二人のうち一人は、
時々、自分の後ろから砂を踏む音が聞こえるようになった。
――ザッ……ザッ……。
振り返っても、誰もいない。
それでも足音だけは、
少しずつ近づいてくるという。
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