岩山公園――夜景の中に立つ女
その公園には、夜になると街の明かりがとても綺麗に見える展望台がある。
ある秋の夜、私は友人と二人で岩山公園を訪れた。
時刻は午後十一時を過ぎていた。
車を降りると、昼間とはまるで違う空気だった。
風が木々を揺らし、葉の擦れる音だけが聞こえる。
「こんな時間に来る場所じゃないな」
友人が笑いながら言った。
私たちは展望台へ向かった。
階段を上り、街を見下ろす。
盛岡の街には無数の明かりが浮かび、その向こうには暗い山々が沈んでいる。
「綺麗だな」
そう言った瞬間だった。
展望台の下から、
「……すみません」
という女の声が聞こえた。
私たちは顔を見合わせた。
「今、聞こえた?」
友人が小声で尋ねる。
確かに聞こえた。
展望台の下には、誰もいない。
それでも、もう一度。
「……すみません」
今度は、すぐ後ろから聞こえた。
振り返る。
誰もいない。
ただ、暗い散策路が伸びているだけだった。
「帰ろう」
友人が言った。
私たちは急いで階段を下りた。
その途中、私は何気なく後ろを振り返った。
すると――
展望台の上に、女が立っていた。
白っぽい服を着て、街の明かりをじっと見下ろしている。
顔は見えない。
「おい……」
友人を呼ぼうとした瞬間、女がゆっくりこちらを振り向いた。
そして、口だけが動いた。
声は聞こえなかった。
けれど、何と言ったのかは分かった。
「そこから、降りちゃだめ」
私は凍りついた。
次の瞬間、友人が私の腕を掴んだ。
「走れ!」
二人で駐車場まで走った。
車に乗り込み、エンジンをかける。
バックミラーを見ると、展望台はもう見えなかった。
翌朝。
私は昨夜撮った写真を確認した。
展望台から撮影した夜景の写真。
そこには、盛岡の街が綺麗に写っていた。
だが、一枚だけおかしな写真があった。
撮影した覚えのない写真だった。
暗い散策路を写した写真。
その中央に、女が立っている。
そして写真の奥。
木々の間に、もう一人いる。
よく見ると、それは――
私だった。
昨夜の私が、女のすぐ後ろに立っている。
しかし私は、その時間ずっと友人と一緒に階段を下りていた。
怖くなって写真を削除しようとした。
その瞬間、スマートフォンから小さな声がした。
「……すみません」
私は画面を落とした。
それ以来、岩山公園の夜景を見ることはなくなった。
ただ一つだけ、今でも気になっている。
あの夜、女が言った、
「そこから、降りちゃだめ」
という言葉。
もし、あのまま展望台から降りなかったら――
私たちは今頃、どこにいたのだろう。
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