三内霊園――夜の墓地で聞こえる足音
青森市にある三内霊園。
昼間は静かで、木々に囲まれた広い墓地に、墓石が整然と並んでいる。
けれど、地元では昔から、夜の霊園について奇妙な噂があった。
「夜中に霊園を歩いていると、自分の後ろから足音が聞こえてくる」
ただし、その足音には一つだけ変なところがある。
どれだけ立ち止まっても、足音だけは近づいてくるというのだ。
ある夏の夜、一人の若者が友人たちと肝試しに訪れた。
時計は午前一時を回っていた。
車を降り、懐中電灯を片手に墓地の中へ入っていく。
「本当に何もないな」
そう言って笑った直後だった。
――ザッ。
背後から、砂利を踏む音がした。
全員が振り返る。
しかし、そこには誰もいない。
「風じゃない?」
そう言って再び歩き始める。
すると、
――ザッ……ザッ……。
今度ははっきりと、複数の足音が聞こえた。
しかも、こちらの歩く速度に合わせるように、後ろからついてくる。
若者たちは急に無口になった。
そして、一人が冗談半分に言った。
「じゃあ、止まってみようぜ」
全員が立ち止まる。
静寂。
虫の声しか聞こえない。
ところが――
――ザッ。
一歩。
――ザッ。
また一歩。
足音だけが近づいてくる。
「……走ろう」
誰かが小さく呟いた。
その瞬間、全員が一斉に走り出した。
背後から、
――ザッ、ザッ、ザッ、ザッ……。
足音も速度を上げる。
振り返ることはできなかった。
やがて出口が見え、車のところまでたどり着いた。
全員が慌てて車に乗り込み、エンジンをかける。
そして、ようやく一人が後部座席を確認した。
「……おい」
声が震えていた。
「何?」
「さっき……俺たち、四人だったよな?」
車内が凍りついた。
後部座席には、誰もいない。
だが、座席の中央だけが異様に濡れていた。
そしてフロントガラスには、内側から指でなぞったような文字が残っていた。
「まだ帰らないで」
その後、若者たちは二度と三内霊園へ行かなかった。
しかし、彼らのうち一人だけは、しばらくしてから奇妙なことを言い始めた。
夜、自宅の部屋で眠っていると、
――ザッ……ザッ……。
どこからともなく、砂利を踏む音が聞こえる。
最初は遠い。
けれど毎晩、少しずつ近づいてくる。
そしてある夜。
足音は、とうとうベッドのすぐ横で止まった。
その瞬間、耳元で小さな声がした。
「次は、ひとりで来てね」
翌朝、彼の部屋の床には、濡れた足跡が残っていた。
窓もドアも閉まっていた。
足跡は玄関からではなかった。
ベッドの横から始まり――
そのまま壁の中へ消えていたという。
それ以来、三内霊園では夜になると、誰もいない墓地から、
――ザッ……ザッ……。
という足音が聞こえることがあるという。
もし夜の霊園で、自分の後ろから足音が聞こえてきても――
決して振り返ってはいけない。
振り返った瞬間、
「誰がついてきているのか」
ではなく、
「誰についてきてほしいのか」
が分かってしまうからだ。
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