熊ノ平駅――誰もいないホーム

群馬県の山深くに、かつて鉄道の駅として使われていた場所がある。

熊ノ平駅。

今では列車が停まることもなく、周囲には木々が生い茂っている。

ある夏の夜、廃線跡を撮影していた二人の男が、その場所を訪れた。

時刻は午後十一時を過ぎていた。

山の中は驚くほど静かだった。

「ここ、本当に駅だったんだな」

懐中電灯で照らすと、古い石積みや線路跡が浮かび上がった。

二人がしばらく歩いていると、突然――

カン……。

遠くから、金属を叩くような音が聞こえた。

「今の何?」

二人は立ち止まった。

すると今度は、

カン……カン……。

まるで誰かがホームの端で、線路を確認しているような音だった。

しかし、周囲には誰もいない。

気味が悪くなった二人は、音のする方向へ懐中電灯を向けた。

その瞬間だった。

暗闇の中に、ぼんやりと人影が立っていた。

古い制服のような服を着た男だった。

男は二人を見ることもなく、ただ線路の向こうを見つめている。

「すみません……」

声をかけた。

すると男がゆっくり振り返った。

顔は――見えなかった。

そこには、まるで黒い影が張り付いているようだった。

二人は恐ろしくなり、無言でその場を離れた。

車まで戻り、急いで山を下りる。

ところが翌朝、撮影した映像を確認すると、不思議なことに気づいた。

人影が映っていた場所。

そこには誰も立っていなかった。

しかし、映像の音声には、二人の会話とは別に、はっきりと声が入っていた。

「……まだ、列車は来ないのか」

二人は凍りついた。

そして、その直後。

録画には、もう一つの声が入っていた。

今度は、すぐ耳元で囁くような声だった。

「次は、あなたたちの番だ」

それ以来、二人は二度と熊ノ平駅へ近づかなかったという。

山の中に残された古い駅跡。

そこでは今も、誰も乗ることのない列車を待ち続ける何者かがいるのかもしれない。

そして深夜、静まり返った廃線跡に耳を澄ますと――

遠くから、列車の走る音が聞こえることがあるという。

もちろん、その線路を走る列車は、もう存在しない。

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