大阪城――夜の石垣から聞こえる声

大阪城には、夜になると「石垣の中から声が聞こえる」という噂がある。

ある夏の夜、大学生の男が友人二人と大阪城公園を訪れた。

昼間とは違い、夜の大阪城は静まり返っていた。

ライトに照らされた天守閣を眺めながら歩いていると、友人の一人が、

「せっかくだし、もう少し奥まで行ってみよう」

と言った。

三人は人通りの少ない道を進み、やがて大きな石垣の前に出た。

その瞬間だった。

「……たすけて」

小さな声が聞こえた。

三人は足を止めた。

「今、聞こえた?」

誰かがそう言った。

しかし、周囲には誰もいない。

風の音だけが石垣の間を抜けていく。

「空耳だろ」

そう言って歩き出そうとした、その時。

「……ここから……出して……」

今度は、はっきり聞こえた。

しかも声は、石垣のすぐ向こう側から聞こえている。

三人は顔を見合わせた。

男がスマートフォンのライトを石垣に向ける。

もちろん、そこには何もない。

ただ巨大な石が積み重なっているだけだった。

ところが、友人の一人が突然、

「ちょっと待って……」

と呟いた。

彼は石垣を指差していた。

「さっきより……石が一個増えてない?」

冗談だと思い、二人も確認する。

すると、確かに一番下の石の隙間に、見覚えのない小さな石が挟まっていた。

その石には、何か黒いものが付着している。

「……血?」

そう呟いた瞬間。

石垣の奥から、

コン……

と音がした。

三人は凍りついた。

もう一度。

コン……コン……

まるで、内側から誰かが石を叩いているようだった。

「帰ろう」

誰かが言った。

三人は一斉に走り出した。

しかし、しばらくして一人が振り返った。

石垣の前に、誰かが立っている。

暗くて顔は見えない。

ただ、その人物は三人の後ろ姿をじっと見つめていた。

そして、ゆっくりと片手を上げた。

まるで、

「待ってくれ」

と言っているように。

三人は振り返らず、そのまま大阪城公園を出た。

翌日。

昨夜のことを確認するため、三人で撮影した動画を見返した。

そこには、石垣の前で立ち止まる三人の姿が映っていた。

しかし、不思議なことに、音声には何も入っていない。

「たすけて」という声も、

「コン、コン」という音も、

一切記録されていなかった。

ところが最後の部分だけ、奇妙な音が入っていた。

三人が逃げ始めた直後。

画面の外から、

「ひとり……置いていけ」

という低い声が聞こえていた。

三人は顔を見合わせた。

そして、その瞬間になって初めて気づいた。

動画の中では、三人が走り出したあとも、

石垣の前に立っている「もう一人の影」が映っていた。

しかもその影は、

三人を追いかけるように、

ゆっくりとこちらへ歩き始めていた。

それ以来、三人は夜の大阪城には近づいていない。

そして今でも、あの石垣の前を通ると、

誰もいないはずの場所から、

「……ひとり、置いていけ」

という声が聞こえることがあるという。

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