若杉の白い家――窓の向こうに立つ女

夜の山道を走っていた。

目的地は、かつて「若杉の白い家」と呼ばれていた場所。

昼間に見れば、ただの古い建物跡にしか見えない。

しかし、この場所には昔から、不気味な噂がある。

「夜に近づくと、白い家の窓に女が立っている」

そんな話だった。

ある夏の深夜、二人の若者が、その噂を確かめようと山道を進んでいた。

車を止め、懐中電灯を手にして歩いていく。

周囲には街灯もなく、聞こえるのは木々が風に揺れる音だけだった。

しばらく進むと、暗闇の中に白っぽい壁が浮かび上がった。

「……あれか?」

二人が立ち止まった。

そこには、噂の白い家があった。

建物の前まで近づいたとき、友人の一人が突然、足を止めた。

「なあ……二階、見てみろよ」

言われて顔を上げる。

二階には、黒くなった窓がいくつか並んでいた。

もちろん、中に明かりなどない。

ところが――

その窓の一つだけが、妙に白く見えた。

よく見ると、窓の向こうに何かが立っている。

人だった。

白い服を着た女のように見えた。

「……誰かいるのか?」

声をかけても、動かない。

二人はしばらく黙って見上げていた。

すると突然、その人影がゆっくりと顔を上げた。

距離があるため、顔までは見えない。

だが、なぜか二人には分かった。

――こちらを見ている。

「帰ろう」

友人が小さな声で言った。

二人は急いで来た道を戻った。

そして車に乗り込もうとした、その瞬間だった。

後ろから、

「……ねえ」

女の声がした。

二人は振り返らなかった。

そのまま車に乗り込み、エンジンをかける。

そして山道を一気に下った。

しばらくして、助手席の友人が震える声で言った。

「……さっきの女、どこにいたと思う?」

運転していた男は答えなかった。

「窓の中じゃなかった」

友人が続けた。

「俺たちが車に戻ったとき……」

そこで言葉を止める。

運転手がバックミラーを見る。

後部座席には、誰もいない。

ただ、後ろの窓にだけ――

白い手形が、いくつも残っていた。

しかもその手形は、外側ではなく、

車内側の窓についていた。

二人はその後、一度も若杉の白い家へ近づかなかったという。

そして今でも、あの夜に聞いた「ねえ」という声が、どこから聞こえてきたのか分からない。

もしかすると、あの女は最初から建物の中にはいなかったのかもしれない。

二人が白い家を見つけたときには――

すでに、車の中にいたのかもしれない。

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