上野ヶ丘墓地公園――桜の下に立つ女

大分市の中心部から少し離れた丘の上に、上野ヶ丘墓地公園はある。

昼間は、墓地ということを忘れてしまうほど穏やかな場所だ。

春になれば、約400本ともいわれる桜が咲き、花見客で賑わう。

だが、夜になると――。

そこはまるで別の場所になる。

これは、ある大学生の男性が体験したという話をもとにした怪談である。

その夜、男は友人二人と上野ヶ丘墓地公園を訪れていた。

時刻は午前零時を少し回ったころ。

「本当に何も出ないって」

友人の一人が笑った。

男も笑いながら、スマートフォンのライトを照らして歩いた。

墓石が並ぶ。

木々が風に揺れる。

遠くから車の走る音が聞こえる。

それ以外は、何もない。

ところが、桜の木が並ぶ場所まで来たときだった。

男は、ふと足を止めた。

「……あれ?」

一本の桜の木の下に、人が立っていた。

白い服を着た女だった。

長い髪。

こちらに背を向けている。

「誰かいるぞ」

友人が声をかけた。

女は動かない。

男がスマートフォンを向ける。

その瞬間――。

女の姿が消えた。

「……え?」

三人は顔を見合わせた。

もう一度、桜の木を見る。

誰もいない。

「帰ろうぜ」

今度は誰も笑わなかった。

三人は急いで車へ戻った。

そしてエンジンをかけた、そのときだった。

後部座席に座っていた友人が、小さな声で言った。

「……なあ」

「何?」

「さっきの女……」

「うん」

「俺たちが見たとき、後ろ向いてたよな?」

「そうだけど」

友人は青ざめていた。

「……でも今、俺のスマホに写ってる」

男が画面を見る。

そこには、さっきの桜の木が写っていた。

そして――。

木の下に女が立っていた。

こちらを向いて。

顔だけが、不自然なほど白い。

三人は無言で車を走らせた。

その夜は、それ以上何も起こらなかった。

しかし翌朝。

男はスマートフォンを見て、凍りついた。

昨夜の写真を確認していると、一枚だけ見覚えのない写真があった。

撮影時刻は、午前0時17分。

写真には、墓地の中で眠るように立っている女が写っていた。

そして、その写真の隅。

小さな文字が映り込んでいた。

「まだ、帰ってない」

男は意味が分からなかった。

だが、その日の夜。

自宅で眠っていると、突然身体が動かなくなった。

声も出ない。

目だけが動く。

そして、部屋の隅に――。

昨夜の女が立っていた。

女は何も言わない。

ただ、じっと男を見つめている。

やがて女は、ゆっくりと口を開いた。

「……帰れって言ったでしょう」

そこで男の意識は途切れた。

翌朝、目を覚ました男は、すぐに上野ヶ丘墓地公園の写真を削除した。

そして二度と、その場所には近づかなかった。

ただ――。

数日後。

スマートフォンに残っていた一枚の写真を見つけた。

削除したはずの、あの写真だった。

そこには桜の木と墓地が写っていた。

そして今度は――。

女の姿はなかった。

その代わり。

写真を撮っている男のすぐ後ろに、

長い髪の女が立っていた。

耳元まで顔を近づけて、

笑っていた。

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