大阪砲兵工廠工場跡――夜の工場に響く足音
大阪城の近くには、かつて巨大な軍需工場が存在していました。
大阪砲兵工廠。
明治から昭和にかけて、兵器や砲弾などを製造していた場所です。
現在では、その多くが姿を消していますが、当時の建物の一部は今も残されています。
これは、そんな工場跡を訪れた男性から聞いた話です。
ある夏の夜。
男性は友人と二人で、大阪城周辺を歩いていました。
時計を見ると、すでに夜の十一時を過ぎています。
昼間なら多くの人が歩いている場所も、夜になると急に静かになります。
そのとき、友人が古い建物の方を指差しました。
「あそこ、昔の工場跡らしいぞ」
二人は少し離れた場所から建物を眺めました。
窓は暗く、建物の周囲には人の気配がありません。
ところが――
突然、
カン……。
金属を叩いたような音が聞こえました。
二人は顔を見合わせました。
「今の聞こえた?」
「聞こえた」
しばらくすると、
カン……カン……。
今度は、はっきりと二回。
まるで誰かが工場の中で、金属を叩いているような音でした。
もちろん、夜中の建物の中に人がいるはずもありません。
二人は少し怖くなり、その場を離れようとしました。
その瞬間でした。
建物の奥から、
「……ザッ」
何かを引きずるような音がしました。
そして、
ザッ……ザッ……。
今度は足音です。
ゆっくりと、こちらへ近づいてきます。
二人は黙ったまま、その場から動けなくなりました。
足音は建物の中から外へ向かっているようでした。
ザッ……。
ザッ……。
そして、古い建物の入口付近で音が止まりました。
静寂が戻ります。
友人が小声で言いました。
「……帰ろう」
二人が振り返った、そのとき――
背後から、
カンッ!
突然、金属を叩く大きな音が響きました。
二人は一斉に走り出しました。
振り返ることはできませんでした。
その後、しばらくして二人は立ち止まりました。
すると友人が、青ざめた顔で言いました。
「なあ……さっきから聞こえてない?」
「何が?」
「足音……」
二人が耳を澄ますと、
遠く離れたはずの工場跡から、
ザッ……ザッ……。
再び足音が聞こえていました。
しかし、その足音は建物から遠ざかっているのではありません。
こちらへ向かってきていたのです。
ザッ……。
ザッ……。
そして最後に、
耳元で金属を叩くような、
カンッ――
という音が響きました。
二人はその夜、二度と振り返らずに帰ったそうです。
翌日、男性が昨夜の場所を昼間に訪れてみると、そこには何事もなかったかのような静かな景色が広がっていました。
ただ、一つだけ気になったことがありました。
昨夜、二人が立っていた場所のすぐ近くに、
古びた金属片が落ちていたのです。
それを拾い上げた男性は、なぜか強い寒気を感じました。
そして、その金属片を置いた瞬間――
遠くの建物の方から、
カン……。
小さな金属音が聞こえたそうです。
大阪砲兵工廠。
かつて多くの人々が働き、兵器を生産していた巨大な工場。
今では静かな場所となっていますが、
夜の工場跡から聞こえる金属音が何なのか――
それを知る人はいません。
コメント
コメントを投稿