奈良ドリームランド跡地――最後のアナウンス
午前0時を少し過ぎたころ。
男は、奈良ドリームランドの跡地を遠くから眺めていた。
かつてここには、多くの人で賑わう遊園地があった。
ジェットコースターが走り、観覧車が回り、子どもたちの笑い声が響いていた。
しかし2006年8月31日。
45年間続いた遊園地は、静かに営業を終えた。
その後、施設は長い間放置され、まるで時間から取り残されたような廃墟になっていた。
男は昔から、この場所にまつわる噂を聞いていた。
「夜になると、誰もいないはずの園内から音楽が聞こえる」
「止まったはずの遊具が動く」
そして――
「閉園したはずなのに、園内放送が流れることがある」
もちろん、ただの噂だ。
そう思っていた。
その夜、男が跡地の近くを歩いていると、
――♪~
突然、どこからともなく音楽が聞こえてきた。
遊園地で流れているような、明るく楽しげな音楽。
男は足を止めた。
「……こんな時間に?」
周囲には誰もいない。
風もない。
それなのに、音楽だけがはっきり聞こえてくる。
やがて音楽が止まった。
そして――
『本日は、奈良ドリームランドへお越しいただき、誠にありがとうございます』
男の背筋が凍った。
園内放送だった。
しかし、ここはもう営業していない。
それどころか、その当時残っていた施設もすでに解体されている。
『まもなく閉園のお時間となります』
スピーカーから流れる声は、妙に明るかった。
『お忘れ物のないよう、お気をつけください』
男はその場から離れようとした。
すると、
『最後のお客様が、お帰りになります』
――ザッ。
背後で足音がした。
振り返る。
誰もいない。
もう一度、放送が流れた。
『……まだ、おひとり残っています』
男は息を止めた。
その瞬間、遠くから、
「カタン……」
「カタン……」
と、何かが動く音がした。
かつて遊園地にあった乗り物が走っているような音だった。
男は怖くなり、走ってその場を離れた。
そして翌朝。
男は昨夜のことを確かめるため、撮影した動画を見返した。
そこには、暗闇の中に何も映っていなかった。
音楽も入っていない。
園内放送も録音されていない。
「……夢だったのか」
そう呟いた、その時だった。
動画の最後。
男が立ち去る直前の数秒間だけ、画面の奥に小さな人影が映っていた。
それは、こちらを向いて立っていた。
そして画面を拡大すると――
人影の口元が、ゆっくり動いていた。
「……閉園してないよ」
男は、その日以来、二度と跡地へ近づかなかった。
奈良ドリームランドは、もう存在しない。
遊具も、観覧車も、コースターもない。
それでも――
かつて「夢の国」だった場所から聞こえた最後のアナウンスだけは、
今も誰かの耳に届いているのかもしれない。
『本日は、ご来園ありがとうございました』
『またのお越しを――』
――お待ちしております。
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