旧総谷トンネル――トンネルの向こうから聞こえる声
三重県の山深くに、かつて鉄道が走っていた。
その場所に残されているのが、旧総谷トンネルだった。
昼間でも薄暗く、周囲には木々が生い茂っている。
地元では、昔からこの辺りで「夜になると人の声が聞こえる」という噂があった。
ある夏の夜、二人の若者がその場所を訪れた。
「本当に何か出るのかな?」
懐中電灯を片手に、トンネルの入口へ近づく。
すると――。
カン……。
遠くから、金属を叩くような音が聞こえた。
「今の何?」
二人は顔を見合わせた。
カン……カン……。
音は少しずつ近づいてくる。
しかし、トンネルの中には当然、誰もいない。
「気のせいだろ」
そう言って、一人がトンネルの奥へ懐中電灯を向けた。
その瞬間だった。
――ガタン、ゴトン……。
まるで列車が走っているような音が、トンネルの奥から響いてきた。
二人は息を呑んだ。
旧総谷トンネルは、もう列車が走る場所ではない。
それなのに、音は確実に近づいてくる。
ガタン……ゴトン……。
そして、突然音が止まった。
静寂。
「……行こう」
二人が振り返った、そのとき。
背後から、小さな声がした。
「……まだ、来ないの?」
二人は凍りついた。
誰かがいる。
しかし、振り返っても誰もいない。
もう一度、声がする。
「……早く……」
今度は、すぐ耳元だった。
二人は夢中で走り出した。
トンネルから出た瞬間、後ろを振り返る。
入口には誰もいない。
ただ、暗闇だけが広がっていた。
その夜、二人は何も起こらなかったことにした。
ところが翌朝。
撮影した動画を確認すると、奇妙なものが映っていた。
トンネルの奥。
そこには、二人が入ったときには存在しなかったはずの、白い人影が立っていた。
そして動画の最後。
映像が真っ暗になる直前に、録音されていた。
「……次は、あなたたちの番」
それ以来、二人は二度と旧総谷トンネルには近づかなかったという。
山の中で列車の音を聞いても、決して振り返ってはいけない。
なぜなら――
その音は、今走っている列車ではなく、
かつてここを走った列車が、もう一度こちらへ戻ってきている音なのかもしれない。
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