比治山陸軍墓地――夜中に数える足音

広島市の比治山。

昼間は静かな公園として知られるこの場所には、かつて陸軍関係者が眠る墓地があった。

これは、ある男性が比治山を夜に訪れたときの話である。


その男性は、深夜に比治山を歩いていた。

時計を見ると、午前1時を少し過ぎていた。

周囲には誰もいない。

街灯の明かりが遠くに見えるだけで、墓地の周辺は異様なほど静かだった。

そのとき――

「……ザッ」

背後から、砂利を踏む音がした。

男性は振り返った。

誰もいない。

気のせいだと思い、再び歩き始める。

すると、

「ザッ……ザッ……ザッ……」

今度は、はっきりと複数の足音が聞こえた。

まるで大勢の人間が、一定の間隔で歩いているようだった。

男性は立ち止まった。

足音も止まった。

そして、恐る恐る後ろを見る。

やはり誰もいない。

ところが――

足元に、奇妙なものが落ちていた。

古びた軍靴のような靴跡だった。

しかも一つではない。

墓地の奥から、男性のいる場所へ向かって、いくつもの足跡が続いていた。

男性は怖くなり、その場を離れようとした。

その瞬間。

「……整列」

小さな声が聞こえた。

男性は凍りついた。

声は、すぐ背後から聞こえた。

ゆっくり振り返る。

そこには――

誰もいない。

しかし、足音だけが聞こえていた。

「ザッ」

「ザッ」

「ザッ」

そして、足音は男性の周囲をぐるりと取り囲むように動き始めた。

逃げようとしても、足が動かない。

そのとき、耳元で低い声がした。

「……人数を確認せよ」

次の瞬間。

「一人……」

「二人……」

「三人……」

暗闇の中から、誰かが人数を数え始めた。

声は一つではなかった。

何人もの男が、同時に数字を呟いている。

「十七……」

「十八……」

「十九……」

数字が増えていく。

二十。

二十一。

二十二。

男性は恐怖で目を閉じた。

そして、最後に――

「……二十三」

という声がした。

静寂。

男性はゆっくり目を開けた。

すると、目の前に古い軍服を着た男が立っていた。

顔は見えない。

ただ、その男はじっと男性を見下ろしていた。

そして一言。

「……一人、多い」

その瞬間、男性の意識は途切れた。


翌朝。

男性は比治山の道端で倒れているところを発見された。

幸い大きな怪我はなかった。

ただ、一つだけ奇妙なことがあった。

靴の裏に、黒い土が大量についていたという。

男性が倒れていた場所は舗装された道だった。

土など付着するはずのない場所だった。

さらに、その土をよく見ると――

小さな金属片が混じっていた。

古い軍装品のような金属片だったという。

それ以来、男性は夜の比治山には近づかなくなった。

だが、最後にこう話していた。

「今でも、夜中に静かな場所へ行くと聞こえるんです」

「……あの足音が」

ザッ。

ザッ。

ザッ。

まるで今も誰かが、暗闇の中で整列を続けているかのように――。

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