琵琶湖大橋――湖面から呼ぶ声

深夜、琵琶湖大橋を車で渡っていた。

時刻は午前二時を少し過ぎた頃。

昼間なら多くの車が行き交う橋も、その時間になるとほとんど車の姿はない。

橋の上から見える琵琶湖は、街の明かりをわずかに映しているだけだった。

「……真っ暗だな」

そう呟きながら、ゆっくりと車を走らせていた。

すると、橋の中央付近に差しかかったところで、バックミラーに違和感を覚えた。

後ろに、一台の白い車がいる。

いつからいたのか分からない。

ライトを点けているのに、車体だけが妙に暗く見えた。

気味が悪くなり、少し速度を上げた。

しかし、白い車も一定の距離を保ったままついてくる。

やがて橋を下り始めたところで、突然その車が消えた。

「……?」

ミラーを何度見ても、後ろには何もいない。

気のせいだったのだろう。

そう思って、そのまま走り続けた。

ところが数分後。

車内に、かすかな声が聞こえた。

「……止まって……」

思わずブレーキを踏みそうになった。

しかし、声は車内のどこから聞こえたのか分からない。

ラジオは消している。

助手席にも誰もいない。

「……止まって……」

今度は、はっきり聞こえた。

そして、その直後。

カーナビの画面が突然消えた。

真っ黒になった画面に、ぼんやりと何かが映っている。

最初は自分の顔だと思った。

だが違った。

自分の後部座席に――

濡れた髪の女が座っていた。

「うわっ!」

車を路肩に寄せ、慌てて振り返る。

しかし、そこには誰もいない。

シートも乾いている。

震える手で再び前を向いた。

するとフロントガラスの向こうに、琵琶湖大橋が見えた。

おかしい。

さっき、橋はもう渡り終えたはずだった。

それなのに、自分はまた橋の上を走っている。

しかも今度は、橋の中央に一人の女が立っていた。

白い服。

長い髪。

そして、裸足だった。

車を止めようとした瞬間、女がゆっくり顔を上げた。

その顔を見た瞬間、背筋が凍った。

女の顔には――

目も鼻も口もなかった。

ただ真っ白な顔で、こちらを見ている。

そして女が一歩、車へ近づいてくる。

その瞬間、耳元で声がした。

「……次は、あなたが湖の下」

恐怖でアクセルを踏み込んだ。

車は橋を一気に走り抜けた。

気がつくと、橋は完全に消えていた。

翌朝。

車を確認すると、後部座席だけがびしょ濡れになっていた。

そしてシートの上には、一本の長い髪の毛。

さらに、運転席の窓には内側から指で書いたような文字が残っていた。

「また橋で待ってる」

それ以来、その男は二度と夜の琵琶湖大橋を渡らなくなったという。

ただ、不思議なことに――

その後も毎年、同じ日の午前二時になると、

男の車のカーナビには一度も設定したことのない目的地が表示される。

目的地の名前は、

「琵琶湖大橋」

だった。

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