総曲輪の廃墟――誰もいないはずの階段

富山県の中心部、総曲輪。

昼間は多くの人が行き交う繁華街だが、少し路地へ入ると、古い建物がひっそりと残っている場所がある。

その中に、長い間使われていない建物があった。

窓は汚れ、壁にはひびが入り、入口には立入禁止の札が掛けられている。

地元では、そこについて妙な噂があった。

「夜になると、階段を上がる足音が聞こえる」

ある夜、私はその建物の前を通りかかった。

時刻は午前一時を過ぎていた。

周囲の店はほとんど閉まり、昼間の賑やかさが嘘のように静まり返っている。

そのときだった。

――コツ。

建物の中から、小さな音が聞こえた。

誰かが床を歩いたような音だった。

私は立ち止まった。

しかし、建物は何年も使われていない。

気のせいだと思い、その場を離れようとした。

すると今度は、

――コツ、コツ、コツ。

明らかに階段を上っているような足音が聞こえてきた。

一階から二階へ。

そして二階から三階へ。

足音は、ゆっくりと上へ向かっていく。

私は建物を見上げた。

暗い窓のひとつに、人影のようなものが見えた気がした。

だが、次の瞬間には消えていた。

怖くなった私は、その場から離れた。

ところが、数十メートルほど歩いたところで、背後から声がした。

「……待って」

私は振り返らなかった。

すると、

――コツ。

また足音がした。

今度は建物の中ではない。

すぐ後ろからだった。

――コツ、コツ。

誰かが私の後ろを歩いている。

私は走った。

総曲輪の明るい通りまで出ても、足音はしばらく続いていた。

そして街灯の下で、恐る恐る振り返った。

そこには誰もいなかった。

翌日、気になって建物について調べてみた。

すると、昔その建物を利用していた人の中に、夜遅くまで働いていた人物がいたという話を聞いた。

その人物は、毎晩決まった時間になると、階段を上っていたらしい。

だが、ある日を境に突然姿を見せなくなったという。

それ以上のことを知る者はいなかった。

そして今でも、深夜になると、あの建物から階段を上るような足音が聞こえることがあるという。

――コツ、コツ、コツ。

誰もいないはずの廃墟で、

誰かが今も、上の階を目指しているのだろうか。

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