首切り山――夜の山道

栃木県の山あいに、「首切り山」と呼ばれる場所がある。

その名前を聞いたとき、誰もが同じことを思う。

――なぜ、そんな名前がついたのか。

ある夜、二人の若者が肝試しのため、その山へ向かった。

時刻は午前一時を過ぎていた。

山道を車で進んでいると、突然、助手席の男が窓の外を指さした。

「今……誰か歩いてなかった?」

運転していた男が振り返る。

しかし、そこには誰もいない。

ただ、車のヘッドライトに照らされた細い山道が続いているだけだった。

そのまま車を進めていると、カーブの先に古い木製の標識が見えた。

そこには、薄く消えかかった文字で、

「この先、入るな」

と書かれていた。

二人は笑いながら車を降りた。

そして、スマートフォンのライトを頼りに、山道を歩き始めた。

しばらくすると、後ろから、

「……待って」

という声が聞こえた。

二人は同時に振り返った。

誰もいない。

「今、俺たち以外に誰かいた?」

そう話していると、また声がした。

今度は、すぐ耳元だった。

「……待って」

二人は慌てて走り出した。

すると、前方の木々の間に、人影が立っているのが見えた。

白い服を着た人物だった。

顔は見えない。

ただ、その人物は二人をじっと見つめているようだった。

「逃げろ!」

二人は来た道を必死に戻った。

しかし、いくら走っても車が見えてこない。

やがて一人が足を止めた。

「……おかしい」

もう一人が振り返る。

「どうした?」

男は震える手で、山道の奥を指さした。

「俺たち……最初から、あの人の前を通ってないか?」

その瞬間、二人の背後から、

コツ……

コツ……

と、ゆっくり足音が近づいてきた。

振り返ることができなかった。

足音は少しずつ近づき、

やがて二人のすぐ後ろで止まった。

そして――

「首……置いていけ」

低い声が聞こえた。

二人は悲鳴を上げながら走った。

その後、ようやく車まで戻ることができたが、二人とも何が起きたのかを説明できなかったという。

ただ、一人のスマートフォンには、山の中で撮影した覚えのない写真が一枚だけ残っていた。

真っ暗な山道。

その中央に、白い服の人物が立っている。

そして写真の上部。

木の枝の間から見えていたのは――

こちらを覗き込む、人の頭だった。

この話が本当にあったことなのか、それとも「首切り山」という名前から生まれた噂なのか。

真相は分からない。

ただ、地元でこの山の名前を聞いても、夜に近づこうとする人はほとんどいないという。

山では、見てはいけないものを見ても、

逃げ切れるとは限らない。

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