栄・池田公園――誰もいないベンチ

名古屋の繁華街、栄。

夜になると多くの人が行き交うこの街の一角に、池田公園がある。

昼間は普通の公園だが、深夜になると人通りも減り、どこか妙な静けさに包まれる。

これは、そんな池田公園で起きたという話だ。

ある男性が、仕事帰りに池田公園の中を歩いていた。

時刻は午前一時を過ぎていた。

公園を抜けて駅へ向かおうとしたとき、ふと一つのベンチに目が止まった。

そこには、誰も座っていない。

しかし――

なぜかベンチの中央だけが、濡れていた。

雨は降っていない。

男性は不思議に思ったものの、そのまま通り過ぎようとした。

その瞬間だった。

「……座って」

背後から、女性の声が聞こえた。

驚いて振り返る。

しかし、誰もいない。

周囲を見渡しても、人影はなかった。

気のせいだと思い、男性は足早に公園を出ようとした。

ところが、数歩進んだところで、スマートフォンが突然震えた。

画面を見ると、知らない番号から着信が入っていた。

怖くなって無視すると、すぐに切れた。

そして、直後にもう一度着信が入った。

今度は画面に表示された番号を見て、男性は凍りついた。

そこには――

自分の番号が表示されていた。

恐る恐る通話ボタンを押す。

すると、電話の向こうから聞こえてきたのは、先ほどの女性の声だった。

「……まだ、そこにいる?」

男性は慌てて電話を切った。

そして公園の出口へ走った。

しかし、なぜか何度走っても同じ場所に戻ってしまう。

目の前には、さっきのベンチ。

中央だけが濡れている。

そして今度は――

そこに誰かが座っていた。

長い髪の女性だった。

顔はうつむいていて、表情は見えない。

男性が立ち止まると、女性がゆっくり顔を上げた。

その顔を見た瞬間、男性は声を失った。

女性の顔には――

目も、鼻も、口もなかった。

ただ真っ白な顔が、こちらを向いていた。

そして、口のない顔から声だけが聞こえた。

「……次は、あなたが座って」

男性はその場から逃げ出した。

公園を飛び出したあと、振り返ることはできなかったという。

翌朝、もう一度公園を訪れてみると、あのベンチには何も変わったところはなかった。

ただ――

ベンチの中央だけが、雨でも降ったように濡れていた。

それ以来、男性は深夜の池田公園には近づかなくなったという。

そして今でも、あのベンチには、

「夜になると誰もいないのに、誰かが座っている」

という噂が残っている。

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