ホテルあとりあ――富山の廃ホテルに残る声

富山県の山間部。

人通りの少ない道を進んだ先に、かつて営業していたという一軒のホテルがある。

名前は「ホテルあとりあ」。

今では長い間使われておらず、建物の壁は黒ずみ、窓ガラスのいくつかは割れている。

昼間でも薄暗く、周囲には木々が生い茂っていた。

このホテルには、昔から妙な噂があった。

「夜になると、廊下を歩く女の姿を見る」

そして、誰もいないはずの客室から、時々電話の音が聞こえるという。

ある夜、二人の若者がホテルの近くまでやって来た。

建物の中を外から眺めていると、突然――。

ジリリリリ……。

静まり返ったホテルの中から、電話の音が響いた。

二人は顔を見合わせた。

「……まだ電話があるのか?」

音は一階ではなく、二階から聞こえているようだった。

二人は恐る恐る建物の中へ入った。

廊下には古びたカーペット。

壁には剥がれかけた壁紙。

そして、何年も使われていないはずなのに、二階の奥から再び電話の音が鳴った。

ジリリリリ……。

音を追っていくと、一つの客室の前で止まった。

ドアには、かすかに「203」という文字が残っている。

片方がドアに手をかけた。

すると――。

中から女性の声がした。

「……遅かったね」

二人は凍りついた。

当然、中に人がいるはずがない。

それでも声は続いた。

「ずっと……待ってた」

二人は慌てて廊下を走った。

階段を駆け下り、外へ飛び出す。

そして車に乗り込もうとした、その時だった。

建物の二階を見ると、割れた窓の向こうに女が立っていた。

白い服を着て、こちらをじっと見ている。

二人は急いで車を走らせた。

しかし、その夜から一人の携帯電話に奇妙な着信が入るようになった。

着信時刻は、毎晩午前2時03分。

番号は表示されない。

最初は無視していた。

ところが三日目。

電話に出てしまった。

「……もしもし?」

返事はない。

ただ、かすかな雑音の奥から、

「……部屋、まだ空いてるよ」

という女性の声が聞こえた。

男は慌てて電話を切った。

翌朝、携帯電話を確認すると、着信履歴にはその電話が残っていなかった。

そして最後に、男がもう一度だけホテルあとりあを見に行ったという。

昼間の明るい時間だった。

建物の前まで来た男は、二階の203号室を見上げた。

すると窓ガラスに、内側から文字が書かれていた。

「また来てね」

その文字を見た瞬間、男の携帯電話が鳴った。

午前2時03分。

画面には、誰も登録していない番号が表示されていた。

そして電話に出る前から、受話器の向こうで女性の声が聞こえた。

「……今度は、泊まっていってね」

それ以来、男は二度とホテルあとりあの近くへ行かなかったという。

現在も廃墟となったホテルあとりあでは、夜になると二階の203号室から電話の音が聞こえる。

もちろん、そこには電話線など残っていない。

それでも深夜になると――。

ジリリリリ……。

誰もいないホテルの中で、電話だけが鳴り続けるという。

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