旧逢坂山隧道――トンネルの向こうから聞こえる声

深夜、友人と二人で旧逢坂山隧道を訪れた。

昼間なら歴史を感じさせる古いトンネルも、夜になると雰囲気が一変する。

周囲にはほとんど人の気配がなく、車の音も聞こえない。

懐中電灯を手に、入口からゆっくりと中へ入っていく。

「思ったより長いな」

友人がそう言った直後だった。

トンネルの奥から、

「……おーい」

小さな声が聞こえた。

二人は立ち止まった。

誰かが先に入っているのかと思い、ライトを奥へ向ける。

しかし、そこには誰もいない。

「聞こえたよな?」

そう確認すると、友人は黙ってうなずいた。

念のため、声のした方向へ進んでみる。

すると、今度はさっきよりはっきりと、

「……こっち」

と聞こえた。

声は確かに人の声だった。

だが、不思議なことに、どこから聞こえているのか分からない。

トンネルの壁に反響しているようにも聞こえる。

二人は少しずつ歩みを進めた。

その瞬間、友人が急に立ち止まった。

「……今、後ろに誰かいた」

振り返る。

当然、誰もいない。

しかし、懐中電灯の光が照らした壁には、二人分ではない影が映っていた。

三つ目の影が、壁に細長く伸びている。

二人とも声が出なかった。

そして、その影だけがゆっくりと動いた。

まるで、こちらへ近づいてくるように。

「戻ろう」

友人が小さく言った。

二人は走って入口へ向かった。

ところが、いくら走っても出口が近づいてこない。

さっきまで見えていた入口の明かりが、どんどん遠ざかっていく。

そして背後から、

「……待って」

という声が聞こえた。

今度は、すぐ耳元だった。

二人は振り返らなかった。

ただ必死に走った。

ようやく外へ飛び出したとき、友人が荒い息をしながら言った。

「最後に聞こえた声……お前の声だったぞ」

自分は何も言っていない。

その場では、そう答えることしかできなかった。

しかし後日、撮影していた動画を確認すると、不思議なことに気づいた。

トンネルの中で、二人が走り出した直後。

録音された音声の中に、はっきりと自分の声が入っていた。

「……こっち」

その声は、二人がまだトンネルの奥へ向かっていたときに聞いた声と、まったく同じだった。

それ以来、二人は旧逢坂山隧道へ近づいていない。

そして今でも疑問に思う。

あの夜、トンネルの奥から聞こえてきた「こっち」という声は、一体誰が発したものだったのか。

そして、なぜその声が――

自分の声だったのか。

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