乙丸陸橋――窓に映った女

深夜、仕事を終えた男性が車で乙丸陸橋を通っていた。

時間は午前二時過ぎ。

周囲の道路は静かで、走っている車もほとんどなかった。

男性が陸橋を上っていると、ふとルームミラーに違和感を覚えた。

後部座席の窓に、誰かの顔が映っている。

長い髪の女性だった。

男性は驚いて、思わずブレーキを踏みかけた。

しかし、後部座席には誰も乗せていない。

「見間違いか……」

そう思い、もう一度ミラーを確認する。

今度は何も映っていなかった。

男性は気味が悪かったものの、そのまま車を走らせた。

ところが、陸橋を下り始めたところで、またミラーに女性の顔が映った。

今度は、さっきよりはっきり見えた。

女性は後部座席に座っている。

顔を俯け、長い髪で顔を隠していた。

男性は怖くなり、車を止めることができなかった。

そのまま陸橋を抜け、明るいコンビニの駐車場まで走った。

車を降り、後部座席を確認する。

やはり誰もいない。

「疲れているんだ……」

そう自分に言い聞かせ、車に戻った。

そのときだった。

助手席の窓に、白い手の跡がついていることに気づいた。

内側から押しつけたような手形だった。

男性は慌てて車を発進させた。

翌朝、車を確認すると、手形は消えていた。

ただ、スマートフォンに見覚えのない写真が一枚残っていた。

撮影した覚えはない。

写真には、昨夜の車内が写っていた。

後部座席には、あの女性が座っている。

そして女性は、こちらを見ていた。

写真を拡大すると、さらに奇妙なことに気づいた。

女性の隣。

誰も座っていないはずの場所に、もう一人分の人影が写っていた。

それ以来、男性は乙丸陸橋を夜中に通ることを避けているという。

そして今でも、車の後部座席を確認するときだけは、

必ず先にルームミラーを見る。

そこに――

「誰か」が映っていないことを確認してから、ドアを開けるためだ。

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