狩籠の丘――見下ろす人
夜の狩籠の丘は、昼間とはまるで違う場所に見える。
街の明かりから少し離れた丘の上は、風が強く、木々のざわめきだけが妙に大きく聞こえる。
ある夜、友人と二人でそこを訪れた。
時間は午前一時を過ぎていた。
車を停め、丘の上へ続く道を歩いていると、友人が突然立ち止まった。
「……今、誰かいた?」
そう言って、少し先の斜面を指差した。
暗闇の中には、木が何本か立っているだけだった。
「気のせいじゃない?」
そう答えて歩き出した。
ところが、数分後。
今度は自分が何かを見た。
丘の下を見下ろすようにして、白っぽい人影が立っていた。
距離はそれほど遠くない。
しかし、顔だけが妙に見えなかった。
「おい……あれ、人じゃないか?」
友人に言うと、友人は黙ったまま首を横に振った。
「違う」
「何が?」
友人は小さな声で答えた。
「さっきから、あそこにいる」
その言葉を聞いて、背筋が冷たくなった。
つまり、友人はもっと前から、あの人影に気づいていたのだ。
その瞬間、人影がゆっくりと動いた。
こちらへ歩いてくるのかと思った。
だが、違った。
人影は丘の端に立ったまま、ゆっくりとこちらへ顔を向けた。
顔は見えない。
それでも――
「見られている」
そう感じた。
怖くなり、二人で急いで車へ戻った。
エンジンをかけ、丘を下ろうとしたときだった。
友人が突然、後部座席を振り返った。
「……乗ってる」
その一言で、車内の空気が凍りついた。
「何が?」
聞き返しても、友人は答えない。
ただ、震えながらバックミラーを見つめていた。
自分も恐る恐る鏡を見た。
後部座席には、誰もいない。
ほっとした、その直後。
車の屋根から、
コン……
と、小さな音がした。
続いて、
コン……
もう一度。
まるで、誰かが車の屋根を指で叩いているようだった。
二人とも声が出なかった。
そして三度目の音がした。
コン……
その瞬間、友人が震える声で言った。
「……上じゃない」
「え?」
友人はフロントガラスの先を指差した。
丘の上。
先ほど人影が立っていた場所に、まだ誰かが立っている。
そしてその人影は、こちらを見下ろしていた。
車を急発進させ、丘を離れた。
それ以来、二人とも狩籠の丘へ行くことはなくなった。
ただ、後になって友人から一つだけ奇妙な話を聞いた。
あの夜、車の中で聞こえた「コン」という音。
録音されていたという。
だが、音声を確認すると――
三回の音のあとに、かすかな声が入っていた。
「……まだ、見てる」
誰が、誰を見ていたのか。
それだけは、今でも分からない。
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