雄別炭鉱――地下から聞こえる声

北海道の山奥に、かつて巨大な炭鉱町があった。

そこには炭鉱住宅、病院、学校、商店街まであり、最盛期には多くの人々が暮らしていたという。

しかし炭鉱が閉山すると、町は急速に姿を消していった。

人のいなくなった建物だけが、山の中に取り残された。

ある夏の夜、二人の若者が雄別炭鉱跡を訪れた。

「本当に何もないな……」

懐中電灯で周囲を照らしながら歩いていると、突然、遠くから金属を叩くような音が聞こえた。

――カン……カン……カン……

「何の音だ?」

二人は立ち止まった。

音は、廃墟となった建物の奥から聞こえてくる。

誰かがいるのかと思い、二人は慎重に近づいていった。

すると、建物の暗闇の中から、

「……おーい」

小さな声が聞こえた。

二人は顔を見合わせた。

「誰かいるんですか?」

返事はない。

だが、その直後――

――カン……カン……カン……

また金属音が響いた。

そして今度は、はっきりと声が聞こえた。

「まだ……仕事が終わってない……」

二人は恐ろしくなり、その場から逃げようとした。

その瞬間、後ろから、

「待ってくれ」

と声がした。

振り返る。

そこには誰もいない。

しかし、地面には黒い足跡が続いていた。

まるで、誰かが炭で汚れた靴のまま、二人の後ろを歩いてきたかのように。

足跡は廃墟の奥へ続いている。

そして、その先には古びた坑口があった。

二人がライトを向けると、坑口の暗闇から大量の冷たい空気が流れてきた。

その瞬間だった。

地下から、何人もの声が重なって聞こえた。

「交代の時間だ」

「まだ人がいるぞ」

「早く来い」

二人は無我夢中で走った。

振り返ることはできなかった。

山道を下り、車まで戻ってエンジンをかける。

そのとき、一人が何気なく後部座席を見た。

誰も乗っていない。

……はずだった。

窓ガラスには、黒い手形がいくつも付いていた。

そして、車を走らせ始めた直後。

後ろから、

――カン……カン……カン……

と、あの金属音が聞こえた。

翌朝、二人は車を確認した。

黒い手形は消えていた。

だが、後部座席の足元には、見覚えのない黒い石が一つ落ちていた。

石を拾った瞬間、耳元で小さな声がした。

「……今日も仕事だぞ」

二人は二度と雄別炭鉱跡へ行かなかったという。

今でも、あの山では夜になると、誰もいないはずの場所から、

――カン……カン……カン……

と、炭鉱で働いていた人々の仕事の音が聞こえることがある。

閉山して何十年経っても、

地下ではまだ誰かが働き続けているのかもしれない。

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