ホテル関西・308号室

大阪・梅田。

夜になっても人の声が絶えない繁華街の一角に、古くから営業を続けるホテルがある。

そのホテルには、昔から妙な噂があった。

――「308号室だけは、やめておけ」

ある夜、一人の男性が仕事のため、そのホテルに宿泊することになった。

チェックインを済ませ、渡された鍵を見て、男性は少し驚いた。

「308号室……」

その瞬間、フロントの係員が一瞬だけ黙った。

「……あの、お客様」

「はい?」

「もし可能でしたら、別のお部屋に変更いたしましょうか?」

男性は笑った。

「どうしてですか?」

係員は答えなかった。

ただ、

「……いえ。失礼いたしました」

そう言って鍵を渡したという。

308号室。

部屋に入ると、そこには普通のビジネスホテルと何も変わらない光景が広がっていた。

男性は荷物を置き、コンビニで買ってきた弁当を机の上に置いた。

そして、そのまま眠りについた。

午前2時。

「……カサ……」

何かが床を擦るような音で、男性は目を覚ました。

暗闇の中、ベッドの下から音が聞こえる。

「カサ……カサ……」

怖くなった男性は、スマートフォンのライトを点けた。

しかし、何もない。

「気のせいか……」

そう思って再び横になろうとした、その時だった。

鏡の中に、

自分ではない「誰か」が映っている。

男性は息を止めた。

鏡の奥。

自分の背後に、黒い影が立っていた。

ゆっくり振り返る。

――誰もいない。

再び鏡を見る。

今度は何も映っていなかった。

男性は震えながら布団に潜り込んだ。

その直後。

「……ハイ……ハイ……」

床を這うような音がした。

最初は小さかった。

しかし、少しずつ近づいてくる。

「ハイ……ハイ……」

男性は恐る恐る布団の隙間から床を見た。

そして――

黒い顔をした赤ん坊が、床を這っていた。

しかも、その顔には、

二つの頭があるように見えた。

男性は声を出せなかった。

赤ん坊はゆっくりとこちらへ近づいてくる。

そしてベッドの横まで来ると、

ピタッと動きを止めた。

次の瞬間――

「……おかあさん……」

小さな声が聞こえた。

男性は恐怖で目を閉じた。

数秒後。

恐る恐る目を開ける。

そこには何もいなかった。

ただ、床には一本の長い髪の毛が落ちていた。

男性は慌てて部屋を飛び出した。

翌朝。

フロントで昨夜の出来事を話すと、係員はしばらく黙っていた。

そして小さな声で、

「……やっぱり、出ましたか」

と呟いた。

男性が問い詰めると、係員はそれ以上何も話さなかったという。

ただ最後に、

「308号室では、昔からいろいろな噂があるんです」

そう言った。

男性はホテルを後にした。

そして、二度とそのホテルには泊まらなかった。

ところが――

数日後。

男性が撮影していた宿泊先の写真を整理していると、

一枚だけ、奇妙な写真が見つかった。

それは、308号室の鏡を撮影した写真だった。

男性自身は写真の中に写っている。

しかし、その背後には――

もう一人、

黒い顔をした「何か」が立っていた。

そして写真を拡大すると、

その足元に、

小さな赤ん坊の手形が二つ残っていたという。

ホテル関西・308号室。

そこに何があったのか。

本当のことを知る者は、今もいない。

ただ、この部屋には昔から、

「泊まらないほうがいい」

という噂だけが残り続けている。

※ここまでの内容は、308号室にまつわるネット上の心霊話を題材にした創作です。

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