葛岡霊園――三周目の女

深夜一時を過ぎたころ。

仙台市内を走っていた車が、葛岡霊園へ向かっていた。

目的は、昔から囁かれているある噂を確かめるためだった。

――霊園にある塔の周りを、夜中に三周すると何かが起こる。

そんな話だった。

車を降りると、あたりは異様なほど静かだった。

遠くで風が木々を揺らしている。

墓石の間を歩きながら、塔の前へたどり着く。

「本当に三周するの?」

誰かが小さな声で尋ねた。

「ここまで来たんだから、やってみよう」

そう言って、塔の周囲を歩き始めた。

一周目。

何も起こらない。

二周目。

突然、風が止まった。

木々の葉も揺れなくなった。

まるで霊園全体が、何かを待っているようだった。

そして三周目。

塔の裏側へ差しかかった、その瞬間――

「……ふぇ……」

どこからか、赤ん坊の泣き声が聞こえた。

全員が足を止めた。

「今、聞こえた?」

「……聞こえた」

確かに聞こえる。

「ふぇ……ふぇぇ……」

泣き声は、墓石の向こうから聞こえてくる。

しかし、そこには誰もいない。

「もう帰ろう」

そう言って車へ戻ろうとした。

そのときだった。

――コン。

車の窓が叩かれた。

全員が振り返る。

だが、窓の外には誰もいない。

「……今の、何?」

誰も答えられなかった。

すると今度は、車の後ろから女性の声が聞こえた。

「……返して」

振り向くと、墓石の間に白い服を着た女性が立っていた。

長い髪が顔を覆っている。

その腕には、小さな何かを抱えていた。

「……子供?」

そう呟いた瞬間。

女性の顔が、ゆっくりとこちらを向いた。

髪の隙間から見えた顔は、異様なほど白かった。

そして女性が、もう一度呟いた。

「……三周したでしょう?」

その瞬間、全員が車へ駆け込んだ。

エンジンをかけ、霊園から逃げるように走り去る。

誰も後ろを見なかった。

ただ、車のバックミラーにだけ――

白い服の女性が映っていた。

しかし、その女性は霊園にはいなかった。

車のすぐ後ろ。

道路の真ん中に立っていた。

その夜は、それだけで終わった。

……そう思っていた。

翌朝。

撮影した写真を確認していると、一枚だけ奇妙な写真があった。

塔の前で撮影した写真。

そこには、誰もいないはずの場所に白い女性が写っていた。

そして女性の足元には、小さな子供の手形がいくつも残っていた。

さらに恐ろしいことに気づいた。

その手形は、写真の中だけではなかった。

車の後部座席にも――

小さな手形が、いくつも残されていた。

それ以来、あの夜に霊園へ行った人たちは、決して三周目の話をしなくなった。

ただ一つだけ、共通していることがある。

深夜になると、誰もいない部屋の中で――

「……ふぇ……ふぇぇ……」

赤ん坊の泣き声が聞こえる。

そして、その泣き声が聞こえた直後。

必ずどこかで、

――コン。

窓を叩く音がするという。

もしその音が三回続いたら――

三周目を終えたことを、思い出してはいけない。

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