大森山公園展望台――五人目の影
秋田市を一望できる大森山公園の展望台。
昼間なら、日本海や秋田市街を見渡せる美しい場所だ。
しかし、夜になると雰囲気が一変する。
これは、ある大学生4人が、深夜の大森山公園を訪れたときの話だ。
「ここ、夜景かなり綺麗らしいぞ」
午後11時を過ぎたころ、4人を乗せた車は山道を上っていた。
周囲には民家もなく、聞こえるのはエンジン音と風の音だけ。
やがて展望台近くの駐車場に車を止め、4人は外へ出た。
「……なんか、静かすぎない?」
友人の一人がそう言った。
確かに静かだった。
街の明かりは遠くに見えるのに、展望台の周囲には人の気配がまったくない。
4人は階段を上り、展望台へ向かった。
そして、そこで奇妙なものを見つけた。
展望台の近くにある像。
夜の暗闇の中で、その姿だけがぼんやりと浮かんでいる。
「写真撮ろうぜ」
一人がスマートフォンを取り出した。
4人で像の前に並び、写真を撮った。
その瞬間だった。
――カシャッ。
シャッター音の直後、スマートフォンの画面が一瞬だけ暗くなった。
「ん?」
画面を確認すると、撮影した写真には4人の姿が写っていた。
だが、その背後。
展望台の階段のところに、
もう一人、女性が立っていた。
長い髪。
白っぽい服。
顔は下を向いていて、表情は見えない。
「……誰?」
4人は一斉に振り返った。
そこには誰もいない。
「さっき、誰かいた?」
「いや……」
「写真の加工じゃないの?」
そう言いながら、4人は急いで展望台を下りた。
駐車場へ戻る途中、一人がふと後ろを振り返った。
「……おい」
3人が振り向く。
「今、階段に誰かいなかった?」
暗闇の中。
展望台へ続く階段の上に、
白い服の女性が立っていた。
今度は、はっきり見えた。
女性は4人を見つめていた。
そして――
ゆっくりと手を上げた。
「……逃げよう」
誰かが呟いた。
4人は車へ走った。
エンジンをかけ、山道を下っていく。
しばらくすると、助手席の男が口を開いた。
「……なあ」
「何?」
「さっき、俺たち4人だったよな?」
「当たり前だろ」
すると男は、震える声で言った。
「じゃあ……」
「なんでバックミラーに、5人いるんだ?」
車内の空気が凍った。
運転していた男が、恐る恐るバックミラーを見る。
後部座席には3人。
助手席に1人。
そして――
その中央に、
長い髪の女性が座っていた。
誰も、その女性が車に乗り込む瞬間を見ていない。
女性は俯いたまま、じっと動かなかった。
運転手は叫び声を上げ、車を路肩に止めた。
4人は車から飛び出した。
そして、全員が少し離れた場所まで走った。
「……車の中、誰もいない」
恐る恐る戻ってみる。
確かに後部座席には誰もいなかった。
「見間違いだったのか……?」
そう思った瞬間。
車の後部座席の窓に、
内側から手形が一つ浮かび上がった。
白い手形。
誰も触れていないはずなのに、
ゆっくりと窓をなぞるように動いていく。
そして最後に――
窓ガラスへ、一本の指で文字が書かれた。
「5」
その後、この4人は二度と大森山公園へ行かなかった。
しかし、後日。
写真を撮った男が、あの日の写真をもう一度確認してみた。
すると、最初に撮った写真には、
4人の背後に女性が写っていた。
そして、その女性の隣。
よく見ると、
もう一人、人影が立っていた。
男は写真を見た瞬間、スマートフォンを落とした。
なぜなら――
その人影は、
写真を撮っている自分自身の姿だったからだ。
その夜以来、彼のスマートフォンには、
撮った覚えのない大森山公園の写真が、
毎晩一枚ずつ増えるようになったという。
そして、最後の写真には、
展望台から秋田市の夜景を見下ろす5人の姿が写っていた。
4人の大学生。
そして、
あの白い服の女性。
写真の中の5人は、全員こちらを向いていた。
ただ一つだけ、おかしなことがあった。
写真を撮影した場所には、
誰も立っていなかった。
コメント
コメントを投稿