寺家トンネル――出口に立つ女

深夜、友人たちと車で山道を走っていた。

目的地は、地元で「寺家トンネル」と呼ばれている古いトンネルだった。

そこには昔から、こんな噂があった。

――夜中にトンネルを通ると、後部座席に知らない女が座っている。

もちろん、誰も本気にはしていなかった。

午前一時過ぎ。

車のライトが、暗闇の中に古びたトンネルの入口を照らした。

「行ってみようぜ」

そう言って、車はゆっくりとトンネルへ入った。

中は異様に静かだった。

エンジン音だけが壁に反響している。

すると突然、後部座席から、

「……コン、コン」

と、小さな音が聞こえた。

「何の音?」

全員が振り返った。

しかし、そこには誰もいない。

気のせいだと思い、車を走らせる。

その直後だった。

運転していた友人が、青ざめた顔でつぶやいた。

「……今、トンネルの出口に誰か立ってなかった?」

前を見る。

確かに、出口付近に白い服を着た女が立っていた。

車が近づく。

だが、女は動かない。

そして、ライトが女を照らした瞬間――

姿が消えた。

「……え?」

車内が静まり返る。

そのとき、後ろから女性の声がした。

「……ここから出られないの?」

全員が凍りついた。

声がしたのは、誰も座っていないはずの後部座席。

恐る恐るバックミラーを見る。

そこには――

濡れた髪を垂らした女が、座っていた。

女はじっとこちらを見つめていた。

そして、ゆっくりと笑った。

「……出口、もうないよ」

その瞬間、車のエンジンが突然止まった。

ライトも消える。

完全な暗闇。

誰も声を出せなかった。

数秒後。

車の外から、

「……コン、コン」

また音がした。

今度は、窓を叩く音だった。

一回。

二回。

三回。

そして最後に――

「……開けて」

女性の声が響いた。

翌朝、トンネルの近くで一台の車が発見された。

車内には誰もいなかった。

ただ、後部座席の窓には、内側から指でなぞったような文字が残されていた。

――「まだ、出口を探してる」

それ以来、夜の寺家トンネルでは、

トンネルを抜けたはずなのに、何度も同じ場所へ戻ってくるという噂が囁かれるようになった。

そして一番怖いのは――

そのとき車の後部座席を見ると、

知らない女が、必ず座っているという。

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