少女絵トンネル――消えない少女の絵
夜の山道を走っていた。
街灯はほとんどなく、車のヘッドライトだけが、暗闇の中を細く切り裂いている。
しばらくすると、古びたトンネルが見えてきた。
入口の上には、かすれた文字で「少女絵トンネル」と書かれている。
その名前を見た瞬間、運転していた男は妙な胸騒ぎを覚えた。
だが、引き返すほどのことでもない。
そう思い、そのままトンネルへ入った。
――その瞬間だった。
「……女の子?」
助手席の友人が、小さな声を漏らした。
トンネルの壁に、白い服を着た少女の絵が描かれていた。
薄暗い照明に照らされたその顔は、どこか悲しそうだった。
車はそのまま通り過ぎた。
ところが数秒後、助手席の友人が振り返った。
「なあ……今の絵、こっちを見てなかったか?」
「そんなわけないだろ」
笑いながら答えた。
しかし、運転手もバックミラーを見た。
そこには、さっき通り過ぎたはずの少女の姿が映っていた。
「……え?」
慌ててもう一度見る。
何もいない。
ただ、暗いトンネルが続いているだけだった。
二人は気味が悪くなり、急いでトンネルを抜けた。
そして、そのまま帰宅することにした。
ところが――。
帰り道で、カーナビが突然おかしくなった。
画面には存在しないはずの道が表示されている。
そして目的地として表示された場所は、
「少女絵トンネル」
だった。
「なんで……?」
男がナビを操作する。
しかし画面は消えない。
その直後、後部座席から、
コン……
と、小さな音がした。
二人は同時に振り返った。
誰もいない。
だが、後部座席の窓には、小さな手形がいくつも付いていた。
まるで外側から、誰かが窓を叩いているようだった。
そして翌朝。
男は昨夜の出来事を確かめるため、撮影していたスマートフォンの映像を見返した。
トンネルの映像を再生する。
少女の絵が映る。
そのまま車が通り過ぎる。
ところが――映像の最後。
トンネルを抜ける直前、後部座席に何かが映っていた。
白い服。
長い髪。
そして、こちらをじっと見つめる少女。
男は息をのんだ。
その少女は、壁に描かれていた絵と同じ顔をしていた。
さらに恐ろしいことに、
映像の中の少女は、ゆっくりと口を開いていた。
音声を上げる。
すると、かすかな声が聞こえた。
「……ひとりに、しないで……」
男は慌てて映像を止めた。
だが、その瞬間。
背後から、
「……ねえ」
小さな女の子の声がした。
振り返る。
誰もいない。
しかし、机の上に置いていたスマートフォンの画面には、いつの間にか一枚の写真が表示されていた。
そこに写っていたのは――
昨夜のトンネル。
そして壁に描かれた少女の絵。
その少女は、昨日よりも少しだけこちらに近づいていた。
それ以来、男は二度と少女絵トンネルへ近づかなかったという。
ただ、深夜になると、ときどきスマートフォンに知らない写真が届く。
どの写真も、真っ暗なトンネルの中。
そして写真の隅には、必ず白い服の少女が立っている。
最初は遠くに。
次は少し近くに。
そして最後の写真では――
少女の顔が、画面いっぱいに写っていた。
その写真には、短い文字が添えられていた。
「次は、あなたが絵になるよ」
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