押切処刑場跡 ――「数えてはいけない足音」

深夜、男は一人で押切処刑場跡を訪れた。

ここには昔、罪人の処刑が行われていた――。

そう聞いたことがあった。

「まあ、昔の話だろ」

男はそう呟き、スマートフォンのライトを頼りに、暗い道を歩いていった。

午前一時を過ぎると、周囲には車の音も人の声もない。

聞こえるのは、風で木の葉が擦れる音だけだった。

そのとき。

――コツ。

背後から、小さな足音がした。

男は振り返った。

誰もいない。

「……気のせいか」

再び歩き始める。

――コツ。

また一歩。

今度は、はっきり聞こえた。

男が一歩進む。

――コツ。

背後も一歩。

男が止まる。

……足音も止まった。

「誰かいるのか?」

返事はない。

男は怖くなり、スマートフォンのライトを後ろへ向けた。

そこには、暗闇しかなかった。

そして、もう一度前を向いた瞬間だった。

――コツ。

今度は、すぐ耳元で足音がした。

男は反射的に走り出した。

しかし、走っても走っても、背後の足音は離れない。

――コツ、コツ、コツ、コツ。

足音が増えていく。

一人ではない。

二人。

三人。

いや、それ以上。

まるで暗闇の中から、何人もの人間が一斉に男を追ってくるようだった。

男は振り返らなかった。

振り返ってはいけない。

なぜか、そんな気がした。

ようやく明るい道路が見えた。

男は必死に走り、車へ飛び乗った。

エンジンをかけ、すぐにその場を離れた。

しばらく走ってから、男は震える手でスマートフォンを確認した。

すると、さっき撮影したはずの動画が一つだけ残っていた。

再生してみる。

映っているのは、暗い処刑場跡。

男自身の後ろ姿。

そして、その背後に――

何人もの人影が立っていた。

全員、こちらを向いている。

男は画面を止めた。

その瞬間。

スマートフォンから、かすかな声が聞こえた。

「……次は、お前が数えろ」

男は慌ててスマートフォンを放り投げた。

しかし、その夜からだった。

自宅に帰っても、毎晩決まった時間になると――

玄関の外から、

――コツ。

一つ。

――コツ。

二つ。

――コツ。

三つ。

足音が聞こえるようになった。

そして四つ目の足音が聞こえたとき。

必ず、玄関の向こうから声がする。

「……あと一人」

男は今でも、その声を聞くたびに思う。

あの夜、最後まで振り返らなかった自分は――

本当に、一人だったのだろうか。

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