西蔵王仏舎利塔の怪談――夜の山道

山形市の西蔵王。

昼間なら、木々の間から街を見下ろす静かな場所だ。

しかし、夜になると空気が変わる。

これは、ある若者が友人から聞いた話だ。

その若者は、夜景を見るために西蔵王へ車で向かった。

時計は午後11時を過ぎていた。

山道を進んでいると、突然、助手席の友人が言った。

「……今、誰か歩いてなかった?」

若者がバックミラーを見る。

だが、そこには誰もいない。

「見間違いだろ」

そう言って車を走らせた。

やがて、仏舎利塔の近くまで来た。

車を停めると、二人は外へ出た。

山の夜は静かだった。

風の音。

木々のざわめき。

そして、遠くに見える山形市の明かり。

「せっかくだから、ちょっと歩いてみようぜ」

二人が歩き始めて数分後。

後ろから、

――カツ……カツ……。

誰かが石を踏むような音が聞こえた。

二人は同時に振り返った。

誰もいない。

「気のせいか」

再び歩く。

すると今度は、

――カツ……カツ……カツ……。

音が近づいてくる。

「おい……」

友人が小声で言った。

「さっきから、俺たちの後ろ……誰かいるだろ」

若者は答えなかった。

怖くなり、二人は急いで車へ戻った。

ところが、車のドアを開けようとした瞬間だった。

仏舎利塔の方向から、

「……待って」

女の声がした。

二人は凍りついた。

ゆっくり振り返る。

暗闇の中。

塔の近くに、白い服を着た人影が立っていた。

顔は見えない。

ただ、こちらを向いている。

「……誰?」

若者が声をかけた。

人影は答えなかった。

その代わり、

一歩。

また一歩。

こちらへ近づいてくる。

二人は慌てて車に乗り込み、エンジンをかけた。

その瞬間。

助手席の友人が悲鳴を上げた。

「いる!」

「どこに!?」

「後ろ!」

若者がバックミラーを見る。

そこには――

誰もいなかった。

しかし、車の後部座席には、

濡れた足跡がいくつも残っていた。

まるで誰かが、外から車の中へ歩いてきたように。

二人は無我夢中で山を下りた。

そして街まで戻ったところで、ようやく車を停めた。

「……さっきの、何だったんだ」

友人が震えながら言った。

若者は何も答えられなかった。

ただ、バックミラーを見ていた。

すると。

山の方向から、何かがこちらを見ているような気がした。

翌朝。

若者が車を確認すると、後部座席の足跡は消えていた。

しかし、一つだけ奇妙なものが残っていた。

後部座席の窓ガラス。

そこに、指で書いたような文字が残っていた。

――「また来てね」

もちろん、二人はそれ以来、西蔵王へ夜に行くことはなかった。

そして今でも、その若者はこう言う。

「あの夜、本当に怖かったのは、車の中に足跡があったことじゃない」

「帰る途中、ずっと聞こえていたんだ」

「後部座席から……誰かが小さな声で笑っているのが」

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