大峰城跡――誰もいない城跡から聞こえる足音
夜の大峰城跡は、昼間とはまるで別の場所だった。
山道を登っていくにつれ、街の明かりが少しずつ遠ざかっていく。
同行者と二人で城跡に着いたとき、周囲には誰もいなかった。
「さすがに、この時間は誰もいないな」
そう言って懐中電灯を向けた瞬間だった。
――カツ。
背後から、小さな足音が聞こえた。
二人とも同時に振り返った。
もちろん、誰もいない。
「木の枝じゃない?」
そう言って先へ進んだ。
しかし、しばらくするとまた、
――カツ……カツ……。
今度ははっきりと、人間が歩いているような音だった。
しかも音は、こちらが歩くと止まり、こちらが止まると聞こえてくる。
まるで、誰かが一定の距離を保ちながら後ろをついてきている。
怖くなり、二人で一気に城跡の奥へ進んだ。
すると、古い石垣の前で同行者が突然立ち止まった。
「……なあ」
「何?」
「今、あそこに人いたよな?」
指差した先には、暗闇しかない。
だが、懐中電灯を向けると、木々の間に白っぽい影が一瞬だけ見えた。
人が立っているように見えた。
「誰かいるんじゃない?」
声をかけても返事はない。
もう一度ライトを向ける。
――消えていた。
その瞬間、
――カツ。
すぐ後ろで足音が鳴った。
振り返る。
誰もいない。
しかし、同行者の顔から血の気が引いていた。
「……今、俺たちの間に誰かいた」
「え?」
「お前の後ろ。俺の前」
そう言われ、背筋が凍った。
二人の間には、確かに誰もいない。
それでも、足元の落ち葉だけが不自然に踏み潰されていた。
しかも、その跡は二人の間から城跡の奥へ向かって続いていた。
まるで、透明な誰かが歩いているように。
怖くなった二人は、急いで山を下りることにした。
その途中だった。
後ろから、
――カツ、カツ、カツ。
足音が追ってくる。
今度は明らかに近い。
振り返ることができなかった。
そのまま無言で山道を下り、車まで戻った。
車に乗り込み、エンジンをかける。
ようやく安心したそのとき。
同行者が小さな声で言った。
「……写真、撮った?」
スマートフォンを見ると、城跡で撮った写真が一枚だけ残っていた。
そこには、暗い城跡と二人の姿が写っている。
だが、二人の背後。
石垣の前に、
見知らぬ人影が一人、立っていた。
しかも、その人物の足元には影がなかった。
二人は何も言わず、その写真を消した。
しかし後日、スマートフォンを確認すると――
消したはずの写真が、また一枚だけ復元されていた。
そして写真の日付は、撮影した時刻ではなかった。
「午前0時00分」
二人がまだ大峰城跡へ到着していない時間だった。
その写真には、誰もいないはずの山道が写っている。
そして画面の一番奥。
こちらへ向かって、
一人の人影が歩いていた。
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