クイーンシャトー――誰もいないはずの部屋

深夜、車を走らせていた。

街の明かりが少なくなった頃、道路の先に、ひときわ異様な建物が見えてきた。

「……あれが、クイーンシャトーか」

長いあいだ使われていないような建物。

暗闇の中に立つその姿は、まるで周囲から切り離された別の世界のようだった。

車を止め、しばらく建物を眺めていると――

カタン。

どこからか、小さな音が聞こえた。

風の音だと思った。

しかし、その直後。

建物の上階にある窓のひとつが、ゆっくりと明るくなった。

「……誰かいる?」

電気が点いたように見えた。

だが、次の瞬間には消えている。

不思議に思いながら車へ戻ろうとした、そのときだった。

背後から、

「……ねえ」

女の声がした。

振り返る。

誰もいない。

辺りを見回しても、人影はなかった。

気のせいだ。

そう思って車に乗り込んだ。

エンジンをかけ、バックミラーを見る。

そこには、建物が映っていた。

そして――

さっきまで暗かった窓に、女が立っていた。

長い髪。

白い顔。

こちらをじっと見つめている。

「……!」

慌てて振り返る。

もちろん、窓には誰もいない。

もう一度ミラーを見る。

そこにも何も映っていなかった。

急いで車を走らせた。

しばらくして、ようやく落ち着きを取り戻した。

「見間違いだ……」

そう呟いた瞬間。

車の後部座席から、

コン……

と、何かを叩くような音がした。

コン……。

もう一度。

怖くて振り返ることができない。

そのままアクセルを踏み続けた。

やがて街灯の多い場所まで戻り、ようやく車を停めた。

恐る恐る後部座席を見る。

誰もいない。

ただ、座席の中央に――

濡れた髪の毛が一本だけ落ちていた。

その夜以来、彼は二度とクイーンシャトーの近くへ行かなかった。

しかし数日後。

撮影した写真を整理していると、一枚だけ見覚えのない写真があった。

クイーンシャトーを撮影した写真だった。

窓はすべて真っ暗。

ところが、その写真を拡大すると――

一番上の窓に、女の顔が写っていた。

そして写真の下には、撮影した覚えのない文字があった。

「次は、車の中じゃない場所で会おう」

その瞬間、部屋の電気が消えた。

真っ暗な部屋の中で、

コン……

コン……

と、窓を叩く音が聞こえた。

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