土堂原刑場跡 ――「数え間違えた一人」

夜の土堂原刑場跡には、妙な噂があった。

「夜に行くと、誰かに人数を数えられる」

そんな話だった。

ある夏の夜、肝試しに訪れた数人の若者がいた。

懐中電灯を頼りに、静かな道を歩いていく。

「ここが刑場跡か……」

周囲には人の気配がない。

風もないのに、木々の葉だけがカサカサと揺れていた。

そのときだった。

「……いち」

どこからか、低い声が聞こえた。

全員が立ち止まった。

「今、誰か喋った?」

「気のせいだろ」

そう言って歩き出す。

すると、また聞こえた。

「……に」

今度は全員が聞いた。

声は、すぐ後ろから聞こえたようだった。

振り返っても、誰もいない。

「……さん」

三度目の声。

恐ろしくなった一人が、人数を確認した。

「一、二、三、四……五人いる」

確かに五人だった。

「じゃあ、さっきの声は何なんだよ」

誰も答えなかった。

そのまま帰ろうとした瞬間――

「……ろく」

全員の顔から血の気が引いた。

五人しかいない。

なのに、誰かが「六」と数えた。

慌てて車へ戻る。

そして車に乗り込んだところで、一人がふと後部座席を見た。

「……え?」

そこには、誰もいないはずの座席に、黒い影が座っていた。

人の形をしている。

しかし、顔だけが見えない。

「誰……?」

影はゆっくりと顔を上げた。

そして、小さな声で言った。

「……ひとり、足りない」

その瞬間、車のエンジンが勝手に止まった。

車内が真っ暗になる。

誰も動けない。

すると、外から足音が聞こえてきた。

ザッ……ザッ……ザッ……

車の周囲を、何かが歩いている。

一周。

二周。

三周。

そして運転席の窓の前で足音が止まった。

コン、コン。

窓を叩く音。

誰も外を見られなかった。

やがて、耳元で声がした。

「……数えてみろ」

恐る恐る人数を確認する。

一人。

二人。

三人。

四人。

――五人。

全員いる。

そう思った瞬間、後部座席から声がした。

「……六人」

全員が凍りついた。

ゆっくり振り返る。

そこには、さっきまでいなかったはずの「六人目」が座っていた。

その顔を見た瞬間、全員が悲鳴を上げた。

顔には目も鼻も口もなかった。

ただ、真っ黒な顔の中央に、小さな口だけが開いていた。

そして、その口が笑った。

「今度は、間違えなかった」

翌朝。

その場所には、誰もいなかった。

車だけが残されていた。

そして車内の窓には、内側から指で書かれたような文字が残っていた。

――「六人」

それ以来、土堂原刑場跡では、夜になると誰もいない場所から人の声が聞こえるという。

「いち……」

「に……」

「さん……」

そして最後に、必ずこう続く。

「……まだ一人、足りない」

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