金華山の「戻ってくる道」
夜の金華山には、昼間とは違う顔がある。
ある夏の夜、二人の若者が金華山を訪れた。
ロープウェーの営業時間はとっくに終わっていたため、二人は山道を歩いて登っていた。
「この時間なら、誰もいないだろ」
そう言って笑いながら、懐中電灯を頼りに進んでいく。
しばらくすると、後ろから小さな音が聞こえた。
――ザッ、ザッ。
誰かが歩いている。
振り返っても、暗い山道が続いているだけだった。
「動物じゃない?」
そう言って再び歩き始めた。
ところが、音は消えない。
むしろ、少しずつ近づいてくる。
――ザッ、ザッ。
二人が立ち止まると、音も止まった。
「……いる?」
返事はない。
不気味になった二人は、急いで山道を進んだ。
やがて、見覚えのある場所に出た。
「ここ……さっき通らなかった?」
片方がそう言った。
道標を見る。
間違いない。
二人は先ほどと同じ場所に戻っていた。
「道を間違えたんだろ」
そう思い、別の道を選んだ。
しかし、数分後。
また同じ場所に戻ってきた。
そして今度は、道の脇に誰かが立っていた。
白っぽい服を着た人影だった。
顔は見えない。
「すみません!」
声をかけても、人影は動かなかった。
二人が近づくと、その姿はゆっくりと木々の向こうへ消えていった。
怖くなった二人は、来た道を引き返すことにした。
ところが、どれだけ歩いても下山できない。
スマートフォンを見ると、時刻は午前0時を過ぎていた。
そして突然、片方のスマートフォンに通知が届いた。
撮った覚えのない写真だった。
画面に映っていたのは、さっき二人が歩いていた山道。
その中央に、白い服の人影が立っている。
そして写真の下には、見知らぬ文字が表示されていた。
「ひとり足りない」
二人は顔を見合わせた。
その瞬間。
隣にいたはずの友人が消えた。
「……おい?」
返事はない。
懐中電灯だけが、地面に落ちていた。
そして暗闇の奥から、聞き慣れた声がした。
「こっちだよ」
声のする方向へ進もうとした。
しかし、そこで気づいた。
その声は――
自分の声だった。
翌朝、登山道の近くで一人の若者が発見された。
無事だったものの、もう一人の姿は最後まで見つからなかったという。
そして、発見された若者は何度尋ねられても、同じ言葉しか口にしなかった。
「山を下りたんです」
「一人で?」
そう聞かれると、若者は首を横に振った。
「違います」
そして、怯えた表情でこう続けた。
「ずっと後ろに、もう一人いました」
それ以来、その山道では夜になると、
――ザッ、ザッ。
二人分の足音が聞こえることがあるという。
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