はねたき橋――橋の向こうから聞こえる声
夜のはねたき橋は、昼間とはまるで別の場所に見えた。
周囲には街灯が少なく、橋の下を流れる川の音だけが、暗闇の中で不気味に響いている。
ある夜、肝試しに訪れた数人の若者が、橋の中央まで歩いていった。
「思ったより普通じゃん」
誰かがそう言って笑った。
その瞬間だった。
――カン……。
橋の向こう側から、金属を叩いたような音が聞こえた。
全員が振り返った。
しかし、そこには誰もいない。
「風じゃない?」
そう言って再び歩き始めた。
ところが、今度は後ろから、
――カン……カン……。
明らかに誰かが歩いてくるような音がした。
一人が振り返ってスマートフォンのライトを向ける。
すると、橋の端に――
白い服を着た人影が立っていた。
顔は見えない。
ただ、こちらをじっと見ているようだった。
「誰……?」
声をかけても返事はない。
その人影が、一歩だけこちらへ近づいた。
全員が逃げようとした、その瞬間。
橋の下から、
「……待って……」
という小さな声が聞こえた。
恐ろしくなった彼らは、一斉に橋を走って戻った。
そして車に乗り込み、急いでその場を離れた。
翌日。
昨夜撮影した動画を確認していると、奇妙なことに気づいた。
橋の中央で撮影した映像。
そこには、若者たち以外に誰も映っていなかった。
しかし、音声だけははっきり残っていた。
――カン……カン……。
そして最後の数秒。
画面には誰もいない橋が映っている。
その映像の奥から、女の声が聞こえた。
「……どうして、置いていったの?」
その瞬間、動画は突然途切れた。
それ以来、彼らは二度とはねたき橋へ行かなかったという。
ただ、地元では今でもこんな噂が囁かれている。
夜の橋を一人で歩いていると、後ろから足音が聞こえる。
振り返ってはいけない。
もし振り返ってしまったら――
橋の向こう側にいる「誰か」と、目が合ってしまうからだ。
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