円形校舎廃墟・沼東小学校――赤いランドセルの少女
北海道美唄市。
かつて炭鉱で栄え、多くの人々が暮らしていた我路地区に、一風変わった小学校がありました。
その名は、沼東小学校。
1959年から翌年にかけて建てられた円形校舎は、全国的にも珍しい造りで、かつては多くの子どもたちの声が響いていました。
しかし、炭鉱の閉山とともに町の人口は減少。
そして1974年、学校はその長い歴史に幕を下ろしました。
時が流れ、校舎は人の気配を失っていきました。
窓は割れ、壁は黒ずみ、周囲には草木が生い茂る。
昼間でさえ、どこか時間が止まったような場所。
そして、いつしかこの場所には、こんな噂が囁かれるようになりました。
「夜の校舎に、赤いランドセルを背負った女の子が現れる」
その少女は、かつて沼東小学校に通っていた子どもだという。
ある日の授業中。
先生が黒板に文字を書いていると、教室の後ろから小さな声が聞こえた。
「先生……」
先生が振り返る。
しかし、そこには誰もいない。
ただ、少女の机だけが残されていた。
「○○ちゃんは?」
先生が尋ねると、クラスメートたちは不思議そうな顔をした。
「さっきまで、そこにいたよ」
「休み時間に廊下へ出ていったんじゃない?」
ところが、少女はどこにもいませんでした。
校舎中を探しても見つからない。
外にもいない。
大人たちが周辺を探しても、少女の姿は見つからなかった。
やがて、この出来事は「神隠し」と呼ばれるようになった――。
もちろん、この少女の失踪が実際に起きたと裏付ける公的な資料は確認されていません。
それでも、この噂は長い年月をかけて広がり続けました。
そして、ある夜。
数人の若者が肝試しのため、廃校となった円形校舎を訪れた。
懐中電灯の明かりだけを頼りに、暗い校舎へ入っていく。
ギィ……。
古びた扉が軋む。
「本当に何か出るのかな」
誰かが笑った。
その瞬間だった。
廊下の奥から、
コツ……
コツ……
と、小さな足音が聞こえた。
全員が黙り込む。
コツ……
コツ……
音は少しずつ近づいてくる。
しかし、廊下には誰もいない。
「風じゃない?」
そう言って、一人が懐中電灯を向けた。
すると――
廊下の端に、小さな女の子が立っていた。
白い服。
長い髪。
そして、背中には赤いランドセル。
少女はこちらを見ている。
顔はよく見えない。
「……誰?」
一人が声をかけた。
少女は答えなかった。
ただ、ゆっくりと手を上げる。
そして、校舎の奥を指差した。
「……あっち?」
そう言って一人が歩き出した。
少女は、そのまま廊下の角を曲がった。
急いで追いかける。
しかし――
角を曲がった瞬間、少女の姿は消えていた。
「どこ行った?」
みんなで周囲を探す。
そのとき、一人が気づいた。
「……待って」
「何?」
「今、何人いる?」
全員が顔を見合わせる。
一人。
二人。
三人。
そして――
「……一人、増えてない?」
その言葉に、全員が凍りついた。
誰も知らない少女が、一人だけ混じっていた。
赤いランドセルを背負った少女。
少女は俯いたまま、静かに呟いた。
「……授業、終わった?」
その瞬間、校舎の中に、
キーン……
と、古いチャイムの音が響いた。
そして照明など残っていないはずの校舎の奥から、子どもたちの笑い声が聞こえ始めた。
「帰ろう」
誰かが叫んだ。
四人は一斉に出口へ走った。
外へ飛び出したあと、人数を確認すると――
三人しかいなかった。
一人が消えていた。
慌てて校舎へ戻ろうとすると、残った仲間が叫んだ。
「やめろ!」
「でも、あいつが!」
「違う……」
彼は震えながら、校舎の窓を指差した。
三階の窓。
そこに、赤いランドセルを背負った少女が立っていた。
そして、その少女の隣には――
消えたはずの仲間が立っていた。
二人は並んでこちらを見ている。
少女が笑った。
そして、窓越しにゆっくり手を振った。
その瞬間。
校舎の中から、無数の子どもたちの声が響いた。
「次は、だれ?」
――この話が本当にあったのか。
それとも、長い年月を経て生まれた都市伝説なのか。
確かなことは分かりません。
ただ、沼東小学校には、かつて本当にたくさんの子どもたちが通っていました。
そして今では、その場所に子どもたちの声はありません。
静まり返った円形校舎だけが、かつての記憶を残しています。
もし夜の山道で、どこからか子どもの笑い声が聞こえてきたとしても――
決して、声のする方向へ近づいてはいけません。
もしそこで、
「一緒に帰ろう」
と聞こえてきたら。
それは、あなたを待っている「誰か」かもしれません。
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